狼は嘘をつかない

オオカミは言葉ではなく表情や身体の動きでコミュニケーションを取る。そのため表情から読み取れるものは大きい。だがこの目の前の娘の表情はなんだ、初めてあった同性に向けられるものではないではないか。信頼、愛情 、、これはパートナーに向けられるそれだ。自分が絵を描くことに長けていなければ恐怖したかもしれないが、自分は滅多にお目にかかれるものでは無いと好奇心が圧倒的に勝ってしまっている。ここまで考え好奇心を一旦収めて冷静に思考する。昨晩の彼女の言った言葉『どれだけ探したと思っているんですか』この言葉から考察するに長い間私によく似た娘とはぐれたのだろうか。そしてその娘と彼女の関係は『お姉さま』から普通に考えれば姉妹だが、明らかに種が違う。となると一緒に生活していて不自然でないように姉妹を装っていたか。

「いつからはぐれたのかしら?」

特別な関係となると数日でも"どれだけ"などを使うことがある。そうとなればパートナーも近くにいるだろうからそこに戻してやらなければならないだろう。

「イヤですねお姉さま、とぼけないでくださいよ!オオカミ連盟結成から1年くらいたってからじゃないですか!」

オオカミ連盟、資料にあった。結成は、、PPPがPIPの頃、つまり。

「お姉さまがみんなを庇って、アレから強くなったんですよ!お姉さまをアレから守れるくらいに。」

そう、彼女の言う私にそっくりな狼は、オオカミ連盟リーダーのタイリクオオカミだったのだ。タイリクオオカミはみんなに慕われる存在だったとあった。死んだ者は良く書かれるその程度に思っていたが、本当に英雄だったのかもしれない。

生憎外見は寸分狂わず同じなのかもしれないが、中身は全くの別物で狼を纏めるようなカリスマ性は持ち合わせていないし、英雄でもない。だがしかし、対峙する彼女は自分をそんな偉大な狼だと勘違いしている。その偉大なオオカミのパートナー。

"いったいどんなオオカミなのか"

自分に同性を好む趣味は無いが、好奇心はあった。作家などをしていると自分の体験はそのまま文になる。などと適当な言い訳を自分にして口を開く

-残念ながらその当時の記憶が残ってないの。

嘘はついていない。別の人格だと言っていないだけだ。

「だから、教えて欲しいな」

と肌を見せながら言う。そう、誘っているのだ。この娘が言う事が本当なら何回もの冬を越しているに間違いない。溜まっているものもあるだろう。

「お姉さま、、?」

困惑の目を向けられる。当たり前か、小説や漫画のように思うようにはならないのがこの現実だ。その上このような事をしたのは初めてだ。当たり前だがこの世界には雌しかいないからだ。心臓の鼓動はすごいことになっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る