第25話

(本当に、まだいたんだ! それにまた見つけちゃった!)

 泥棒を見つけて、驚きと興奮で、ネノンは心の中で叫んでいた。大声を出さないと届かないくらいの距離だけど、流石に声を出したりはしない。警察官なのだから、そんな迂闊なことはしないのだ。

(わたしって、本当に警察官の才能があるのかも)

 嬉しくなりながら、ネノンは急いで、けれど気付かれないようにこそこそと、足音を殺して近付いていく。

 男の人が入っていった家の門から覗き込むと、そこでは昨日の空き巣と同じように、男の人が扉の前にしゃがみ込んで、鍵をガチャガチャ弄っているようだった。ネノンはそれを見て、「やっぱり!」と心の中で喜んだ。泥棒を見て喜ぶのも変な話だったけど。

(今度はわたしが捕まえるんだからっ)

 昨日はびっくりした拍子に逃げられてしまった。だから今度は落ち着いて、逃げられないようにしてみせる。ネノンはそう決意していた。その方法も考えてある。

 ネノンはそーっとそーっと、飛び石で作られた玄関までの道を歩いていった。男の人はまだ鍵を弄っている。その音を聞きながら、ゆっくり背後に近付いていく。身体が軽いから、足音が立ちにくいのは便利だった。

 そうしてすぐ後ろにまで辿り着く。男の人はまだ気付いていない。よっぽど焦っているのか、小声で「早くしないと!」と繰り返し呟いている。泥棒なのだから、焦るのは当たり前だろう。

 けれどネノンは「そうはさせないよ」と、ニヤリと笑った。肩に掛けていた水筒を取ると、昨日のことを思い出す。ジューンズが空き巣に手錠をかけていた時の光景だ。

 そしてそれを真似るように……ネノンは水筒の紐を、泥棒の足に巻き付けた!

「うおあっ!?」

 泥棒は驚いて、立ち上がろうとしたらしい。けれど一緒に振り向こうとしたせいで、紐が絡まってその場に転んでしまった。

 どしんと尻餅をついて、扉の前で目を回す泥棒。そしてそのまま、「いったいなにが……」とふらふらしながら呟いてくる。足が動かせないせいか、逃げ出す様子もなかった。きっと観念したんだろう。

 その姿を見て、ネノンは大きな歓喜と興奮を込み上がらせた。自分より目線の下がった男の人を見下ろしながら、ぴょこんっと飛び跳ねて声を上げる。

「やったー! 泥棒、捕まえたーっ」

「なっ、ど、泥棒!?」

 泥棒は自分の正体がバレていたことに驚いたのか、信じられないという顔をしてきた。マスクのせいでくぐもった声をさらに低くして叫んでくる。

 けれどもう捕まえたのだから、無意味なことだ。ネノンは勝ち誇って、水筒の紐を引っ張りながら、今度は周りに向けて繰り返した。

「泥棒だよ! 泥棒、わたしが捕まえたよー!」

「ちょ、ちょっと待て!」

 口を塞ごうと手を伸ばしてくるけれど、ネノンはひょいっとそれを避ける。そうでなくても、転んだままの格好のせいで、手はほとんど届いていなかった。

 そしてそうこうするうちに、ネノンの声を聞いた近所の人たちが集まってきた。家にいたんだろう、主婦の人が多いかもしれない。みんな、何があったのかと門から顔を覗かせてくる。

 それに向かって、ネノンは大きく胸を張った。

「この人、泥棒しようとしてたの! わたしが捕まえたけどねっ」

 と言って、後ろでもうすっかり観念したのか、それとも捕まって悔しいのか、憤るように頭をかきむしっている男の人を指差す。

 近所の人たちは、それはすごいとネノンを褒めてきた。そしてざわざわしながら、犯人の顔を見てやろうと近付いてきて……

 けれどその中の何人かが、「あれ?」と首を傾げた。そして泥棒もその人たちに、どこかヤケクソな様子でマスクを取りながら「ええ、どうも」と、ぶっきらぼうに声を返している。

 ネノンはそれが不思議に思えて、近所の人たちの方を見た。するとその中のひとりが、渋い顔で言ってくる。

「この人……この家に住んでる人よ?」

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