第24話

 その次の日。ネノンはますます上機嫌に街へ降りていった。

 なにしろ昨日は警察官にたくさん褒められたのだから。

 警察署に案内されて、ジューンズよりも偉い警察官からも褒められた。「キミは将来、警察官になれるよ」と言われて、ネノンは嬉しさと恥ずかしさでくねくねしてしまったほどだ。

 だから今日も今日とて、いや今日は昨日よりもずっと、本物の警察官気取りで街のパトロールに出向いたのだ。

 ちなみに水筒はしっかり肩に掛けているので、張り込みもバッチリだ。

「えへへ。ひょっとして、また空き巣を見つけちゃったりして」

 実のところジューンズは、ひょっとしたら他にも空き巣がいるかもと言っていたのだ。

 「あいつは初犯を主張していてね、隠しているだけかもしれないけど、念のためまだ警戒を続けるよ」とのことだ。もっとも、ネノンにはよくわからなかったけれど。

 パトロール場所は昨日と同じ、町の北側である。ただし昨日とは違う細道だ。昨日よりも道っぽくて、その分、分かれ道もあって迷路のようになっている。

 ネノンはそこで、昨日と同じく警察官ごっこを始めることにした。げん担ぎというより、単に気に入ったからだ。

 玄関の門がいくつもこっちを向いている中で、今日の聞き込み相手を探す。人通りは相変わらず少ないから、今日も今日とて相手は虫になってしまったけれど。

 石塀の下にちょこっと生えた雑草の上に乗っている、変な虫だ。でこぼこした三角形の羽と、くるくるした髭を生やしている。足がたくさんあったからちょっと気持ち悪かったけれど、聞き込みのためだからと頑張った。

「ふむふむなるほど。昨日の夜に美術館で悲鳴が聞こえて館長がいなくなってしまった、と」

 全く無関係の事件を捏造しながら、「ご協力感謝します!」と言って敬礼する。

 さらに、その犯人がこの辺りを徘徊している話を聞いたことにして、ネノンは早速近くの十字路で張り込みを始めることにした。

「今日はちゃんと時間を決めて、それから水筒でお茶を飲んだりしよう」

 万全の準備と自分の手際の良さに惚れ惚れしながら、うんうんと頷く。

 そうしながら、ネノンは塀に背中をくっ付けた。十字路だから一方以外からは丸見えだけど、気にしない。

 こっそり角から顔を覗かせると、そこには他と変わらない塀と門の並んだ道が伸びていた。門といっても、単に塀の切れ目なだけだけど。

 人は誰も歩いていないから、このままもう少し張り込みを続けようと、水筒からお茶を飲む。金色に輝く、蜂蜜入りの特製だ。たまに、原っぱでピクニック気分を味わう時に飲んでいる。今は張り込みだけど、まあ気分は似たようなものだった。

 だけどあんまり美味しいから、続けて三杯くらいそれを飲んでしまった。そうして頬を綻ばせている時に、ネノンはハッと見張りを思い出した。

「いけない、いけない。警察官の仕事はしっかりやらなくちゃ!」

 もうすっかり本物になったつもりで、キリッと表情を引き締める。精一杯に威厳ある顔付きにして、またこっそり角から通りを覗き見る。

 すると。今度はその目が、通りの奥から歩いてくる奇妙な男の人を見つけた。

 ただの通行人とはちょっと違う。その人は背が高くて小太りで、鋭く怖い目付き。やましいことでもあるのか口はマスクで隠して、身体は黒っぽい灰色のコートで隠している。そしてなにより、キョロキョロと忙しなく辺りを見回しながら歩いていたのだ。

 これはひょっとして、とネノンが緊張していると、その人は一見の家の前で立ち止まった。そしてなにやら考え込むようにその家を見上げて……しばらくすると、なんとこそこそとその敷地の中へ入っていった!

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