第13話

 街の中を走っていく男の子たちと、ネノン。

 前は追いつけなくて、見えなくなった男の子たち。だけど今はしっかりついていける。ネノンの足が速くなったわけじゃなくて、みんなが少しだけ遅くしてくれているからだけど。

 でもひょっとしたらそれも、足が速くなったと言えるかもしれない。ネノンはなんとなく、そんな気がしていた。

 町の西側の、公園とは反対の方向にある道。またネノンの知らない道だったけど、男の子たちと一緒に走っているから怖くはなかった。

 ただ見たことがない場所だから、ついつい目が違う方にいってしまう。みんなの背中だけじゃなく、周りにある看板や建物を見たくなってしまって、ネノンは時々つまずいたりしていた。

 男の子たちはそのたびに「何やってるんだよ」と少し笑って、ネノンも恥ずかしかったけど、一緒になって笑った。

 そんな風に走っていると、今度はネノンじゃなくて、真ん中の子が違う方を向いた。みんな自由に走っているから、今は真ん中じゃないけれど、それでもなんとなく真ん中な気がする子。

 彼がちらっと横を見ると、他の子も同じようにちらっと横を見た。それにつられて、ネノンもちらっと横を見て、そのせいでまたつまずいてしまった。

 だけどそのおかげでみんなの足が少し止まって、真ん中の子が何を見てたのかわかった。

 自分たちが走っていた、家や店が雑多に並ぶ道の端っこの向かい側。人が少しくらいは歩いているその奥に、自分たちと同じように走り回っている子供がいたのだ。

 それはネノンたちと同じくらいの、眼鏡をかけた男の子だった。だけど楽しそうはなくて、泣き出しそうな顔をしながら、何かを必死に追いかけている。

 追いかけている先を見ると、また別の、こっちはふたり組の男の子がいた。ネノンたちよりもっと年上で、ハスラットより年上かもしれない。

 ネノンが立ち上がる間に、声も聞こえてくる。

「ほれほれ、こっちだよ!」

「キヒヒ、追いついてみろ!」

 冬なのに薄着をした大柄な子と、防寒具をしっかり着込んだ小柄な子が、何か小さな箱を持って走っている。眼鏡の子はそれを追いかけているらしい。

「か、返してよ! 大事なものなんだっ」

「何が大事なものだ。こんなただのガラス玉、集めてなんになるんだよ!」

「そうだそうだ、こんなの無駄だ!」

「それは、その……」

 言われて、反論できずにしゅんと肩をすくめる眼鏡の子。ふたり組の男の子は、その周りで馬鹿にしたように笑い始める。

 ネノンはそれを見て、胸がざわざわして、お腹の底がぐるぐるして、目の奥が熱くなってきた。自分の足元だけ、地面の中から叩かれているような音と振動を感じるし、耳元で大きな犬が呼吸しながら涎を垂らすような、汚い音が聞こえてくる気がした。肩に触れると少しだけ濡れていたけど、雨は降っていないし、犬もいなかったけれど。

「行こうぜ」

 ネノンがそんな風にぐるぐるしている間に、言ってきたのは真ん中の子だった。他の子たちも、なんとなく曖昧に頷いて、また今までみたいに走り始める。

 だけどさっきよりペースは遅くなっていて、そのおかげでネノンは横に並んで走ることができるようになった。それでもまだまだ速くて息が上がってしまうけど、どうしても聞きたいことがあったから、頑張って横に並んで、尋ねる。

「さっきの子、知ってる子なの?」

「一応な。でかい方がゴッスで、小さいのがテリシシだ」

 真ん中の子が、眼鏡の方はエインだったかな? と付け加えながら答えてくる。それに続いて、他の子も言ってきた。

「でも知ってるけど、あいつらはなんか嫌なんだよな」

「そうそう。いつもああやって誰かをいじめてるし」

「止めようとすると、今度はこっちに向かってくるしな」

 口々に、少し機嫌が悪そうな男の子たち。

「そう、なんだ」

 ネノンは聞いてはみたものの、どうすることもできなくて、そうとだけ答えた。

 ちらっと後ろを振り返ると、そこにはもうすっかり眼鏡の子たちの姿は見えないし、声も聞こえてこなかった。

 ただ遠くから、ずしんずしんと土を踏みながら大きなものが歩いてくるような音がして、どろどろした透明な水が川から街へと流れ出てくるような気がしてしまった。もちろん川は見えないから、きっと気のせいなんだけど。

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