冷めがたいヘビと、やけているネコのお話

かけきたき

冷めがたいヘビと、やけているネコのお話



 ある日のこと、じゃんぐるちほーの『けもの道』を二人のフレンズが歩いている。スナネコとツチノコ、彼女たちはこのちほーで開催されるPPPのライブ会場に向かっていたのだ。


「歩くの飽きたのです。帰りたい……」

「ァア゛ーーッ! スナネコ! お前がライブに行きたいっていうから、こうして連れてってやってんだぞ!」

「うう……でも、よく考えたらわざわざ行くほどのことでも――あっ! ちょうちょ! すごい、おっきいー!」

「ゥオオオオイ! 待て待て待てっ!」

「あ、なにするですか、はなしてください、ちょうちょ……」

「そぉォやってお前がフラフラするから、こんな道に迷い込むんだよ! さっさと行くぞ! オラ、まっすぐ歩け!」

「あぁ、ちょうちょ行っちゃった……でも、まあいいか」

「はぁ……まったくなんでオレがコンナヤツヲ……」


 ツチノコが文句を言いながら歩いていると、不意に横合いの茂みから、

「この辺りから声が……」

 小さな影が飛び出した。

「ウォワアアアァァアアアアアッ!??」「キャアアアアアアアアア!?」

「……えっ、なになに、なんですか?」



(の)



 現れたのは、PPPのマネージャー、マーゲイだった。PPPのライブには他のちほーからやって来るフレンズも多いので、道に迷っているフレンズがいないか探していたのだという。


「……でも見つけられてよかったわ。道に迷ったせいで、ライブが終わったころにようやく会場に着く、なんてフレンズも結構いるのよね」

「実際助かったよ。こいつがすぐ変なところにいくから、正直、迷ってたんだ」

「ありがとうございま、……え、マーゲイ、それなんですか? その顔についてる」

「ああ、これはメガネっていって」

「ふーん……」

「だから飽きるの早いんだよっお前は! せめて最後まで聞け!!」

「ツチノコ、早く会場までいきましょう。ジャパリまんが食べたいです」

「お、ま、え、は……!」

「あはは……可愛いけど、かなり個性的なフレンズね……。さ、会場はこっちよ、行きましょう」

「お、おう、そうだ。それで訊きたかったんだが、今回のライブ会場って初代PPPの――」

「そうなんです! ご存知でしたか!? 博士たちに頼み込んで、特別に初代のファーストライブ会場を一緒に探してもらったんですよ! それで見つかったのが――」

「ウヮッハアアア! やっぱり噂は本当だったんだな!? ヒトがいた頃に作られたっていう――」

「……」

「そうですそうです! いやーもう感激ですよ、初代PPPのグッズなんかもたくさんあって――」

「……」

「ぬゎんだってええエエ! それも見られるんだろうな!? スゴイゾー! ゥハァー来てよかっ――いてっ!」

「むぅ…………」

「ぬ、ぬぁにすんだスナネコ! コノヤロウ!」

「……飽きた。ツチノコ、さっさといくです」

「あ、そうだった……って、いて、引っ張るな! コラ!」

「そうしないとツチノコはすぐフラフラしますから」

「アァアン? お前がいうな。というかいい加減離せって!」

「あ、ちょっと二人とも、そっちは会場と逆よ!」

「じゃあそれでもいいです」

「ハァ!? 何いってんだスナネ――いったぁ!? テメェ急に離すな!」

「……飽きた」

「アァ?」

「まあ、騒ぐほどのことでもないかな、と」

「さっきからなんなんだよ、スナネコ……」

「……ふん」

「……ええっと、二人とも、もう大丈夫かしら?」

「はい、大丈夫です。ツチノコがお騒がせしました」

「お前だよっ!」



(の)



 数日後、あの『けもの道』を歩くフレンズが二人。ツチノコとスナネコだ。PPPのライブ鑑賞を終え、さばくちほーに帰るところだった。


「ハァ……なんでまたこんな道に……スナネコ、お前がフラフラしてるからだぞ」

「いやあ、つい。このちほーは面白いものが多いので」

「つい、じゃないっつーの! まったくモウ!」

「……ところでツチノコ、帰り道はこっちでいいのですか?」

「アァン? それがわからなくて困ってるんだろうが! お前のせいだよ!」

「いやそうではなく」

「じゃあなんだァ!?」

「ツチノコの本来の『縄張り』は、さばくちほーではないでしょう? 一緒に帰って、いいのですか?」

「ああ、そういうことか……いいんだよ、これで」

「ほんとですか? あのおっきな迷路もだいたい調べたみたいだし……」

「別にいいんだよ。あの迷宮にも、まだ色々ある」

「でも、PPPライブの会場のほうがたくさん残ってるって言ってたじゃないですか」

「確かにその通りだが、あそこは博士たちが調査中らしいからな。オレはもう少し迷宮を調べるよ」

「だけど、ツチノコ――」

「ウアァァァアア! もう! だから、いいって言ってるだろ! オレは、お前みたいに飽きっぽくないんだよ!」

「うう、でも……」

「なんなんだよ! お前らしくないぞ、こんなしつこくつっかかってくるなんて」

「別に、そういうわけじゃ……」

「ハッキリ言え、ゴルァ!!」

「……マーゲイたちと話してるときのほうが、楽しそうでした」

「ハァ?」

「だけど、もう飽きたので、いいです」

「ゥ、おい、ちょっと待てよ。どういう……」

「ツチノコは先に帰ってていいですよ。ボクはもう少し遊んでいきます。わざわざ付き合って一緒に迷うことはないです」

「アァ? お前一人じゃ帰れないだろ!」

「ボクだってフレンズですから、帰り道くらいわかります。……ああ、別にさばくちほーに帰らなくても、あっちのマーゲイたちのところに戻っても――うわっ」

「ハァア、ッたく……様子がおかしいと思ったら、そんな理由で拗ねてたのか」

「うう、はなしてください、もう飽きたから、いいです」

「オレは、飽きっぽくないんだよ! ィィいいから帰るぞオラ!」

「……帰っても、どうせ、迷路を調べ終わったらどっか行っちゃうじゃないですか。別の遺跡に――」

「アアアアァもうめんどくさいなァ! ンなら一緒に来ればいいだろ!」

「え?」

「だァから、オレと一緒に来いって言ってんだよ!! 文句あっかゴルア!」

「……ああ、なるほど」

「ハァ、ハァ……で、どうなんだ?」

「どう?」

「ついて来るかっつってんだよ!」

「あー、まあ、そのとき飽きてなかったら……」

「ンだよはっきり言えよ!」

「たぶん、ついて行きますよ。ツチノコ、面白いし」

「……うし、じゃあ、帰るぞ」

「はーい。……あ、あともう手はなしてください。飽きたので」

「ダメだ」

「えー、どうしてですか」

「こうしてれば、お前もフラフラどっか行けないからな。これ以上道に迷わなくてすむ」

「ぶー」


 ツチノコの言葉にスナネコは不機嫌そうな顔をしていたが、しばらくすると「ふんふふふ、ふんふふ、ふふふふーん」という鼻歌が『けもの道』に響きだした。

 その響きがあまりに暢気なので、ツチノコはまた溜め息をついた。しかしその尻尾は、リズムを取るようにふらふらと揺れていた。




おわり

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