二日目 夕方
「疲れたな……」
研究所を出てしばらく周囲を探索していた。昨日はまったくの砂漠地帯だったのに、今日ではところどころに植物が見られる。こんな環境の中、一日でこれほど育つとは到底考えられないのだが……
しかし、日が長くなってきたな。昨晩の出来事が原因だろうか。手拍子ごときでそんなに変わるものか……とかく、この世の事象は不可解でしかなかった。
「ヴィナス、探索はここまでにして研究所に帰ろうか」
「ええ」
植物の採取も一通り済んだ。これ以上見たって砂ばかりだ。それに量産したロボットの様子も気になる、早く帰ろう。
最初の1体はAMIGA-B-LIMBO-01-F。それから-02-n…と増やしていこう。AMIGAは古いコンピュータに由来するがそれぞれに意味は無い。なんとなくかっこいいからだ。さて、もうすぐ研究所だ。
─────面食らった!
ロボット、もといAMIGAたちは部屋に溢れんばかりにいる。1体20kgが1000を超える数で詰まっているので床が抜けてしまいそうだ。私はタイマーまでつけたんだぞ、不始末はない、誰がこんなことを。AMIGAたちはギィギィとしか応えない。と、その中でたった1体流暢に喋るヤツがいる。間違いない。
AMIGA-B-LIMBO-01-F!
「01!何をしたんだ!」
ロボットに叫んだって意味の無いことはわかってはいたが────
意外にもファクタは私の声に反応して軽く痙攣すると恐ろしげにこちらを振り向いた。しばらく睨みつけるとやがて鋼鉄の口を開いた。
「博士……」
機械音は混じらない。人間の子供の声によく似ている。
「ええと…………みんな寂しいって……それで……」
「もっとはっきり喋りたまえ」
私はこういうはっきりしない人間が非常に嫌いなのだ。……いや、人のことはちょっと言えないような……
「はい!あの、量産機の設定はボクが変えちゃった……だって数十体じゃ寂しそうだったんですもん。そうだ、ボクの声なんですけど、声は博士の声をサンプリングしていじったものなんですよ、どうです、全然わかんないでしょ」
まったくその通りだ。
「何もかもさッぱりわからん」
ロボットが喋るなんて、というのはもはや今更だから置いておくとして……
「少ししか喋ってないのに、私の声なんてよく取れたな」
01が不思議そうに首を傾げる。極、知能が高い。
「……博士、ボクにテクタイトを入れたんでしょ。しかもベタベタ触ったのを!博士の細胞からでも読み取ったんじゃないですかね」
「そ、それは……なぜテクタイトを知ってる?」
「細胞からでも読み取ったんじゃないですかね」
同じことを繰り返すのが皮肉ったらしい。ムカつく野郎だ。
迂闊だったな…………まあいい、助手が欲しかったんだ。結果オーライだろう。
「01」
「ファクタと呼びなさい!」
「なんだ親にむかってその口の利き方は」
「だってダッサい!」
なぜだ……AMIGA-B-LIMBO-01。これ以上かっこいい名前があるのか。
ファクタは不満げながらも部屋一面のAMIGAに指示する。設定を見てみるとその数なんと2000体。増設せにゃあなぁ、と思った。ヴィナスに頼まなければ………………ヴィナス?
「ヴィナス……ヴィナス?ヴィナス!」
家中呼び回ったがどこにもいやしない。そういえば玄関に入ったときから気配がなかった。思わず椅子にもたれて向こうに首を落とす。
「ファクタァ……」
しばらく天井を見つめていた瞳が、興奮しきって駆けつけてきたファクタを捉えると、私は急に姿勢を正して脚を組む。そうしてなんとか繕った余裕のハリボテから自信満々に。
「初仕事だぜ」
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