山吹色の恋

「ネェ、禅六さん。」と真桜は云ひます。

禅六ができるだけ優しさうな笑顔で「どうしたんだい。」と声を掛けますと、「禅六さんはどうして私たちを家族にしたの。」と不思議さうに、しかしまた嬉しさうに聞くのでした。

「それはね、真桜ちゃん、世麗ちゃん、2人はこれからあたしの家族になるからだよ。家族と一緒は嫌なのかい。」

それを聞ひた世麗は、軽くかぶりを振って、「嫌なのではなひけれど、私たちは気持ち悪いわ。」と云ひますから、禅六が自分の眼帯を取つて見せてやると、2人はとても驚いたやうでした。

「気持ち悪いかい」と禅六が聞きます。

「気持ち悪いわ」と世麗は答へます。「でも2人きりよりはずつとましね。」



禅六はそれから、2人に料理を作つてやりました。彼が何処から素材を持つてきたのかはわかりません。その不思議な御飯を、2人は一口食ひ、二口食ひ、さうして皿のものは全部食べて終ひました。

「美味しいかい。」と禅六が聞きますと、やはり真桜は「おいしいよ。」と答へます。

「お代りも有るよ。好きなだけお食べ。」

次第に真桜は禅六が一口も料理を口にしないのに気がついた。

「禅六さんは、御飯を食べないの。」真桜は聞きます。

「うん。後から食べるよ。」禅六は答へます。

「どうして、あの場所へ来たの」世麗は聞きます。

「あの場所つて。」

「あの廃墟……私たちの手術された場所。」

「それはね」禅六が云ひます。「神様が教へてくださつたんだ。そこへ行かば、幸せになれるつてね。御覧、あたしはすつかり幸せだよ。」

それきり3人共黙つてしまつた。



2人で蒲団の中へ潜り込むと、真桜は世麗に云ひます。「優しい人で良かつたね。」世麗は怒つたやうにきつく云ひます。「馬鹿を云わなひで。人は必ず裏切るわ。誰も信用できなひもの。きつとあの男も捨てて行くわ。」

さうして2人は眠りに就きました。

およそ子の刻に、真桜は尿意で目を覚ましました。世麗はぐつすり寝てゐましたが、真桜にひつぱられて起きました。真桜は便所の場所を知りませんでしたから、禅六に付ひて来てもらおうと思ひました。

「禅六さん」

「やあ、よく来たね」

戸を開けると、禅六は食事の準備をしてゐたので、真桜はこれから御飯なのだなと思ひました。

禅六は真桜を便所へ連れていくと、明かるい部屋へ連れていつて、さうして2人の頭を殴りつけました。

禅六は服を脱がして、すつぱり喉と腹とに切込みを入れると、それを袋に詰め込んで、しばらく待ちました。袋はばたばたと動ひたり、呻き声のようなものを上げたりしましたが、30分もするとふと動きが止まりました。

禅六は袋からそれを取り出すと、目玉をえぐって筋肉をじつくり焼き、その暇で腕に小麦粉をまぶして揚げます。たくさんの部位を調理する間、骨は洗つて砕き壺に詰めました。

目の筋肉を舌に載せて、禅六は思ひます。

「嗚呼、あたしのなんと幸せなことでせう。」

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