一日目 昼

「やァ、センセー」

戸を開けるなり金髪の少年がそう言う。自分の体より大きなリュックサックを背負い、顔には墨で笑顔が描かれた仮面をしているから顔がわからない。少年というにも中性的だ。

それよりも、その物言いが気になった。

「センセー?」

「そうだよ、センセー。蓮さんっていうんでしょ、センセー。これからすぐに急患がくるよ、待っていなよ」

私は反論したかったが、声を出そうとする前に少年は走っていき、そして見えなくなってしまった。

私を知っていた​────いや、きっとあの女が周りに言い触らしたのだろう。周り​───あっ。数少ない生存者。惜しいことをしてしまった。

それにしても、急患?私に医者をやれというのか。本職だから構わないが、人がいたとは予想外。

困ったことになった、とふいに空を見上げると、見えたのはまたなんとも奇妙なものだ。

「月……青い月」

うっかり呟いた言葉を人に聞かれなかったかと思わず口を押さえる。いや、​人がいないのだった。

妙なものだ​────妙なものだ​────

ああ、地平線の向こうに見える人影はヴィナスではないか。一体、どこへ行っていたのだろう。どこへ行くあてがあるのだろう​───

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る