第四章
「ここをBLUE LIMBOと言ったか」
男は思いついたように周りを見回して言う。
「随分空気が悪いな。なんだか頭が重い。車のひとつも見ていないのに、一体どうしたんだ」
「それで待っていたのです」
ヴィーナスは立ち上がって背を向け、ゆっくり数歩歩いてから言う。男には、それがなぜだかわからない。
「ここはBLUE LIMBO、青い辺獄、然るに、確かに少し前までは、星として機能していました。木々は生い茂り、鳥は歌い、水や空気は澄んで……きっと地球よりも、幾倍も良い星でした。なにせ、原始のままでしたから」
「それが、どうして短期間のうちに退廃するのか」
「タービンです。この星の中心である、『世界タービン』の活動停止によるものです。タービンの停止により、全ての生命活動が動かなくなりました。残ったのは私と、それからいくつかの部族だけ」
彼女の話は男には不可解すぎた。
「回せばいいじゃないか、タービンくらい。回せるだろう」
「いいえ」ヴィーナスは続ける。「私たちで回そうともしたのです。しかし、いくらか回っただけですぐに止まってしまう。そのうちにいた一人が言いました。『ああ、これは技術者が必要なのだ』と」
「それで俺を連れてきた」
「そうです」
ヴィーナスは自身の修道服を指す。
「この通り、私は神の信者です。あなたの星で神とされる人とは違う、また別の神のです。我々は「神の書」を授けられました。書には神からのお告げが書かれるのです。それによれば、先程の海」
男は座ったまま小窓から海を見た。
「フローズン・ビーチといいます。そこに立って最初に来た男こそが救世主であると云うのです」
全て聞いた男は怪訝そうな顔をした。
「神?救世主?馬鹿馬鹿しい、俺はそういう物は信じないんだ、宗教勧誘なら他を当たってくれ」
男は科学の人だ。立ち上がって部屋を出ようとしたとき、膝下まで伸びた白衣の裾が大きく翻った。男は戸に手を掛けるまでまだ小声で悪態をついていた。
「畜生、ふざけた真似しやがって……」
「待ってください!」
帰ろうとする「救世主」を引き留めようとヴィーナスは一歩踏み込む。
「……どこへ帰るおつもりですか?」
「あ」
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