第二章

ヴィーナスはスープを作る。煮込む間に倉庫から食材を出して一品二品と料理を作る。女性一人には多い量だ。無論、あの男のため。

男は平たい石を横にした上に眠っている。ヴィーナスはスプーン一杯分のスープを男の口に流し込む。二度、三度と分けて飲ませると、男の隣に座って、彼の蘇生を待った。


男が目を覚ましたのはそれから三十分ほど後である。 ぼやけた頭を覚醒させようと一度目を擦って、それからちらと辺りを見ると、目の前に多くの料理があることに気がつく。男の目に閃光が走る。彼は自らを顧みることなく本能のままに貪った。張った頬には涙すら見えた。

男はすべて平らげると、自分の異常な状況に気がついた。思案する目はまたも遠くを見たが、生気は宿っている。

「いかがです」

「えっ」

ヴィーナスの存在には気づいていなかったようだ。

男が切れ長の目を二度瞬かせる間、ヴィーナスはユラと男の顔を記憶しようとした。

眉間には深く皺が刻まれていて、常に不機嫌そうに見える。面長の輪郭に添うように長く引かれた鼻筋の下には、先程の料理を平らげたとは感じられぬ小さな口があって、口角にソースが付着している。ああ、よく見ると目の下には黒いクマがある。不健康そうだ。

非常に長い時間のように思えた。

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