第一章
確かにヴィーナスは背後から、サク、サク、と人の足音を聞いたのだ。今まで聞いたことのない種である。不正確に歩くそれは、どうやら疲れているらしく、ヴィーナスは歩く者を労うために振り返った。
して、見たのは一人の男である。
彼は背の高い細身の体型でやつれた顔つきをしており、長い脚を絡ませながらこちらへ向かってくる。遠くを見つめた瞳に光はない。こちらには気付いていないらしい。
男は浜に辿り着くと、しばし悲しげな顔をして、それから力なく辺りを見回し、ほんの一瞬痙攣した。ようやくヴィーナスに気が付いたのだろう。彼はフラフラとヴィーナスに近づくと、突然肩に手を掛けて、か細い声で彼女に言った。
「腹が減った…………二日食べてない……頼む……何か食べさせてくれ……」
話し終わると男はゆっくり膝をついてうなだれた。ヴィーナスは男の胸に耳を当てる。何も聞こえない。
ヴィーナスは浜の近くの廃屋に住み着いている怪力の女である。彼女は男を担ぎ上げると、神のお告げを聞き入れるため、その男を住処に連れ帰るのだった。
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