すきというきもち

赤沢波雀

第1話

ある程度お腹も満たされたボクとサーバルちゃんは、二人でベンチに座ってあれこれと話していました。



「かばんちゃん、ちょっとここで待っててくれる?」


「え?あ、わかったよ」



何か用があるのか、サーバルちゃんはハカセ達のところへ行きました。


手持ち無沙汰で周りの光景やたくさんのフレンズさん達を見渡していると、近くの草むらががさがさと動き始めました。



「…?」



草むらからひょこっと耳が飛び出ています。すると耳の持ち主は急に飛び出してきました。



「うわぁっ!たべないでく… フェネックさん?」


「そうだよー ちょっとしたドッキリってねー」


「お、驚かせないで下さいよ…」


「ごめんごめんー」



いつも通りマイペースな調子。フェネックさんはさっきサーバルちゃんが座っていた場所に座りました。



「お疲れー 一時はどうなることかと思ったねぇ」


「ありがとうございます 皆さんのおかげでなんとか戻ってこれました…」


「あのセルリアンに飛びかかってったんでしょー?すごい勇気だね」


「あの時は、サーバルちゃんを助けようってことしか考えてなくて…」


「…ふふ」



…あの時、例えや誇張でもなんでもなく、本当にサーバルちゃんを助けようという気持ちしかありませんでした。


サーバルちゃんを助けられても、どう考えても自分は助からない。それでも、ボクの体は動いていたんです。



「あの子のことが好きなんだねー」


「好き、ですか…」


「ハカセが言ってたんだー。誰かを好きになるって気持ちは、もともとヒトが持つ力だったんだって」


「ヒトが?」


「私たちはフレンズ化してそれを身につけたんだろうけどね」


「好きになるって気持ち…」



好きという気持ち… 正直、いまいちボクには分かりません。


「あの子のこと、どう思う?」


「サーバルちゃんは…」


ボクにとって、サーバルちゃんは。



「…初めて会った、なんの動物かもわからないボクを助けてくれるくらい優しい子で」


「頼りがいがあって、元気で、まぁおっちょこちょいで向こう見ずな所はあるけど」


「そういうのも含めて元気をもらえる、というか…」


「なるほどー」



フェネックさんはボクの言葉をひたすらうなずいて聞いていました。




「うちのアライさんもそういうとこあるからさ」


「あー…」


「後先考えないで行動するし、ドジだし」


「だけどなんか見てて元気づけられるっていうか、頼れるっていうかねー」


「…似た者同士ですね、ボクたち」


「かもねー」


二人で笑いあいます。



「そしてかばんさんは、紛れもなくサーバルのことが"好き"だね」


「…そうなんですか?」


「んー、例えばそうだなー 何かっていうとその子のこと考えちゃったり」


「あー… します」


「その子といると幸せな気持ちになったり」


「します」


「絶対だね」


「絶対ですか…」


「ま、私も詳しい事は分からないけどね。ヒトの感情ってものはハカセ達でも難しいらしいし」



しばらくすると、出掛けたサーバルちゃんが戻ってきました。



「ごめんね遅くなって!…あ、フェネック!」


「やっほー …さて、私はアライさんのお世話にいかないとねー」


「いってらっしゃい!」


「あ、サーバルサーバル」


「ん?」



フェネックさんはサーバルちゃんを呼び寄せると、上の方を指さして内緒話をしていました。



「じゃ、また後でー」



そう言うと、ゆっくりと去っていきました。



「マイペースな人だね」


「だねー」


「サーバルちゃん、さっきなんて言われてたの?」


「え、さっき?あー、気にしないで!」


「そう?」


「かばんちゃんこそ何話してたの?」


「えーっと… ふふ、秘密っ」


「えー?…ま、いっか!」




「…サーバルちゃん、大好きだよっ」



ボクは、サーバルちゃんに聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟きました。



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