第二十六回 筑前的BOOKS OF THE YEAR2017

 2017年最も面白かった本を決める、筑前的BOOK OF YEAR。

 今回で6回目を迎えました。

 2017年の結果を発表する前に、これまでの結果をおさらいしましょう。



BOOK OF YEAR2012


1位 笑う警官(佐々木譲)

2位 東天の獅子(夢枕獏)

3位 制服捜査(佐々木譲)


BOOK OF YEAR2013


1位 秘密(池波正太郎)

2位 ジョーカーゲーム(柳広司)

3位 夜明けの星(池波正太郎)


BOOK OF YEAR2014


1位 廃墟に乞う(佐々木譲)

2位 群雲、関ケ原へ〈下〉(岳宏一郎)

3位 絆―山田浅右衛門斬日譚(鳥羽亮)


BOOK OF YEAR2015


1位 忍びの国(和田竜)

2位 秘伝の声(池波正太郎)

3位 用心棒日月抄(藤沢周平)


BOOK OF YEAR2016


1位 宮本武蔵(吉川英治)

2位 双頭の鷲(佐藤賢一)

3位 孤剣(藤沢周平)


 趣味が爆発と言いましょうか、大賞は時代小説か警察小説しかありません。

 さて、今回はどうでしょうか?


 それではBOOK OF YEAR2017の発表です!



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


1位 ヤマの疾風(西村健)


 筑豊を舞台にした、エンタメ小説。古き良きヤクザの勧善懲悪で、颯爽とした青春小説。だが、筑豊を第二の故郷とする僕には、あまりにも重く、深い。特にキョーコとマッコリ。被差別部落と在日朝鮮人部落の描写が、僕が聞いていた話と重なって、思わず唸ってしまった。作品は面白い。完成されたエンタメ。しかし、それだけでないものもある。それはやはり、筑豊という町の描き方であろう。川筋気質という光と、差別・貧困という闇を余すことなく描き切っている。追伸、ホルモン鍋の朝日食堂は朝日屋、海衆会は太州会だね。叔父貴かっこいい!


2位 伊賀の残光(青山文平)


 まずタイトルが良い。「伊賀の残光」とは言い得て妙である。そして肉厚な地の文。心理描写と風景描写が濃ゆく、ガツンと目が覚める気分になる。主人公は老武士で、そのキャラクター性が文体とマッチし、格調高い作品に仕上がっているのではないか。ただ、ストーリー的には謎は案外小さめで、最後はあっという間というのが残念であるが、読後感はよく春の清風に吹かれた気分になった。


3位 アリゾナ無宿(逢坂剛)


 これを待っていた。日本人による西部劇小説を、僕は待っていた。凄腕賞金稼ぎと若い娘、そして侍というトリオが、アメリカの荒野を駆け巡る活劇。ストーリー的に巨悪も陰謀もないのだが、続編もあるようでその導入としては満足。面白かった!


4位 唐玄宗紀(小前亮)


 主人公は、宦官の高力士。彼の視点によって描かれるのだが、その彼の目に映る玄宗は、民を愛し皇帝の職分を弁えた名君の資質と、優柔不断で弱い精神を持つ暗君の資質を持つ、不思議な男だった。また主人公の高力士は、徹底したポリシーを持った、かっこいい男だった。政治家たちの争いを冷ややかに眺め、時には手を加え、玄宗に被害が及ぼうとすれば、容赦なく潰す。宦官といえば、悪いイメージが先行するが、こうした描き方もあるのだと勉強になった。兎に角、面白い歴史小説だった。


5位 捜査組曲(今野敏)


 個人的には満点を付けたい、安積班シリーズ最新作。今回は登場人物一人一人に焦点を当てた短編集。まぁ安積班ファンに向けた作品だろう。安積が超然として、スーパーマン化しつつある。一抹の不安はそこだが、あとは安定して面白い。この作品、速水は主人公にされていないが、登場するといつも輝く。だから主役にする必要は無いのだね。お見事!


6位 おれは一万石(千野隆司)


 書店で見かけ、表紙と帯を見た瞬間に電撃が奔って即購入。一俵でも欠ければ旗本降格という設定が新鮮で、かつ主人公が殿様として目覚めていく様が大変面白い!購入後すぐに読了してしまう没入感が素晴らしい。ただのチャンバラではなく、治政劇の側面も強く、普段時代小説では描かれない大名同士の交際が描かれているのも魅力。面白く、難し過ぎず、ライトだけど深い。これはお勧めですよ!で、読了後に主人公のウイキペディアを見て僕は……この後、どんなドラマがあるのだろう。続巻があるとの事。期待!


7位 平蔵の首(逢坂剛)


 逢坂剛版「鬼平犯科帳」というべきか。「池波が作った言葉は使わない」「鬼平の素顔を描かない」という縛りを自ら科しているが、それがいい方向に作用し、ピリピリとしたハードボイルドに仕上がっている。仲間が増えていく過程もいいし、何より毎回「平蔵はどこにいる!?」というワクワクがたまらない。


8位 木練柿 (あさのあつこ)


弥勒シリーズ第3弾は、脇役に焦点をあてた短編集。なのだが、これはエロい。エロい小説だと、読了後に僕は実感した。いや、男女が乳繰り合うエロさじゃなく、二人の主人公がフェロモンむんむんの色男過ぎるのです。おそらく、作者は「こんな男に抱かれたい」と思って書いているのだろう。実写版は、高橋一生かディーンフジオカ、斎藤工にでもやらせれば、世の奥様連中は悶絶した昼下がりをおくることになるだろう。


9位 近藤勇白書(池波正太郎)


 局長というのに脇役になる事が多い近藤勇が主人公。簡潔で読みやすく、また隙間のある文章は読者の想像を掻き立て、ぐいぐいと物語に引っ張る。その技術はまさに、魔性。日々増長しそして憔悴していく近藤勇の姿には共感できず、かつ薄ら怖く近藤すら操ろうとする土方に嫌悪感を抱くが、その中で永倉新八と渡辺昇の姿が生き生きとしていた。そして、飯田金十郎。ラストはまた意外でニヤリとさせられた。ただ一つ難点があるとしたら、近藤の心境の変化をもう少し描いて欲しかった所。池田屋を機に変わったのはわかるが、どうも変わり過ぎで困惑。他が素晴らしいだけに、そこだけが目についた。


10位 十一番目の志士(司馬遼太郎)


 馬遼太郎の創作幕末物語。長い物語の割りに尻切れトンボで終わったのは残念ですが、その続きは大河ドラマ「花神」という事でしょうか。しかし、この作品で気になったのは、「穢多」という言葉を、一切使わなかった事。「馬鹿な身分制度」などという言葉でぼかしながら、部落差別を批判している。それは多分、これが書かれた時代、部落差別が非常に身近だったからだろう。それでも大変面白い快作。



 以上が、小説部門でした。


 今年は新たな作家との出会いが多かった気がします。大満足!



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ノンフィクション部門 3作品


被差別の食卓(上原善広)


 世界の被差別民の食を焦点に、生活や歴史のルポルタージュ。入念な取材が旅行記のようで面白い。フライドチキンが被差別民の食というのは初耳だった。また被差別部落が日本のロマという事に目からうろこ。


ヤノマミ(国分拓)


 剥き出しの生と、未知の恐怖。この二つに尽きる。密林の奥地で生きる、ヤノマミ。その生活を追ったノンフィクション作品。これを読んでいると、善悪の規範に絶対性は無いと痛感する。ヤノマミ族は森で出産し、産まれたばかり赤子を地面に転がし、育てるか殺すか決めるわけだが、殺す場合は母親が手足を使って殺した後、シロアリに食べさせて焼く。我々世界から見れば残虐な行為だが、彼らにとっては正当な儀式なのだ。また、てんかん持ちのヤノマミの少年が森に捨てられ、それをFUNASA職員が救い育てた話があった。障害があっては森で生き残れない。だから捨てるという、「森の摂理」を尊重するヤノマミにとっては善なる行為であるのだが、我々世界では考えられない所業だ。このように違うと、同じ人間なのか?とも思ってしまう。それは彼らが人間以下というのではなく、「別の種類の人間」に思えてならなかった。そう思わせる理由は、文明化と共に捨てた剥き出しの生と、未知なる恐怖からだろう。


ミャンマーの柳生一族(高野秀行)


 著者と船戸与一の旅行記。タイトルはふざけていますが、内容はいたってマジメ。そしてムチャクチャ面白い。ミャンマー行きたくなるよマジで。ミャンマーを江戸幕府に見立てた解説が秀逸。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 さて、今年はどんな作品との出会いがあるでしょうか?

 確実に言えるのは、「黒船来航」があります。

 そう、このランキングに海外小説が食い込んでくるでしょう!

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