第二十四回 ヤマの疾風(西村健)

<あらすじ>

第16回大藪春彦賞受賞作。 昭和44年、筑豊。主要産業の炭鉱(ヤマ)が衰退するなか、荒々しい気質だけは健在だった。いずれはこの地を支配すると目されるヤクザ組織「海衆商会」主催の賭場で現金強奪事件が発生。主犯のチンピラ・菱谷松次に対し、同会若頭・中場杜夫の厳しい追及の手が伸びる。運命の邂逅はやがて、筑豊ヤクザ抗争の根底を揺さぶる巨大な奔流へ――。激動の土地と時代を駆け抜けた男たちの苛烈な人生讃歌!

※引用:Amazon.co.jp

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 僕は、一年に一度、僕は人生に影響を及ぼす作品に出会う。


 2017年はこの作品で、ほぼ決まりだろう。

 それほどの作品に僕は出会い、今こうして興奮気味に書いている。


 物語は、昭和44年、筑豊。

 主人公の菱谷松次は、在日朝鮮人のマッコリ、色男のゼゲン(女衒)と共に、賭場荒らしを敢行。しかし、そこにいた海衆商会の組長に気に入られる所から話はスタートする。


 雰囲気は、東映ヤクザ映画を彷彿とさせる、古き良きヤクザの勧善懲悪。一応アウトロー小説であるが、菱谷松次が「飲む」「抱く」「打つ」と、「宵越しの銭は残さない」という筑豊男を地でいく野性味あふれるキャラ故か、暗い印象を与えない。それはもう一人の主人公である、中場杜夫とて同じ。彼は冷静で頭のいいヤクザであるが、陰湿な所がない。

 それ故に、颯爽とした青春小説でライトであるとの意見があるが、筑豊を第二の故郷とする僕には、あまりにも重く、深かった。


 それは、ゼゲンの彼女であるキョーコとマッコリの存在。

 キョーコは被差別部落の生まれであり、マッコリは在日朝鮮人。筑豊を語るに、この二つを抜きにして語れないというと語弊があるが、少なくともこの時代の筑豊には、被差別部落と在日朝鮮人の存在は大きかった。

 これを描くに、著者はよくよく調べ、覚悟して書いたのだろう。アリラン峠と呼ばれた在日朝鮮人部落や被差別部落の描写が、僕が聞いていた話と重なって、思わず唸ってしまった。アリラン峠の劣悪な環境、そしてボタ拾いをする被差別部落の子供達。これは福岡でも飯塚でも繰り返し聞いた話だった。


 また、差別を描いてはいるが、踏み込み過ぎてはいない。当時の筑豊の一風景として描くにとどめているし、それ以上の問題に言及していない。そこは物語を優先した結果で好感を持てる。そして、差別を許さないという主人公側の一貫した姿勢もまた、エンタメを優先した結果であろう。それはそれで、気持ちよく読める。


 作品は面白い。エンタメとして完成している。

 しかし、それだけでないものもある。それはやはり、筑豊という町の描き方であろう。川筋気質という光と差別・貧困という闇を余すことなく描き切っている。それが、大きな魅力を引き出す要因となった。この物語の見所は、まさにここであろう。



 さて――。

 現在、筑豊は「治安が悪い」「修羅の国」「泥棒の町」などと言われる。

 炭鉱が衰退し、それに代わる産業を生みだせないままに経済が落ち目となり、貧困が残ったという苦しい歴史がそうさせたのだろう。

 しかし、僕はそうしたヘイトを聞く度に疑問を感じる。

 石炭産業で日本の近代化と戦後復興を支えたのに、この扱いはどうだろう?と。




 追伸、作中に登場したホルモン鍋の朝日食堂は朝日屋、ヤクザの海衆会は太州会でしょうね。



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区分:現代(昭和)

ジャンル:アウトロー、ハードボイルド

続編:なし

こんな物書きにオススメ:熱いアウトロー小説を書きたい人

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