第4話就活

「大学中退というのは何か理由がありますか?」

「アルバイトもしてなくて資格も何もないんじゃちょっとねぇ……」


次から次へと、現実が、今までのツケが、押し寄せてくる。


「やっぱりだめだよなぁ……」


真夏の太陽の熱を容赦なく吸収する黒いスーツジャケットを脱いで、案内された席に座った。

カフェに来るなんていつぶりだろうか。

他に入れそうな店もなくて、でも涼みたくて思わずこの店に入ったけれど、オシャレな雰囲気が俺に全くあっていない。どうすればこんなところに似合う人間になるのか聞きたい。


――そして結局、サオリの告別式には出席できなかった。


『私ここに縛り付けられてるから、体がどうなってるとか情報がないの』


そう言われてしまったのだ。サオリの魂は事故現場にとらわれている。

疎遠になってしまっていたため大学時代の友人に日程を聞くことも出来なかった。

サオリの体が灰になってしまう前に、もう一度サオリに触れたかった。



「お待たせしました、アイスコーヒーです」


ウエイトレスが飲み物を運んでくる。下を向いて、次の面接日時を確認しながら受け取る。

もう何社目だろうか。面接まで行っても、中退のことや、中退後の生活について聞かれていつも落とされる。そりゃ会社だってこんな経歴のやつ、雇いたくないよな。


「俺、ほんっとに何もないんだなぁ」


自分で自分が情けなくてたまらなかった。

父親には今月中に仕事を決めないと本当に勘当すると言われて慌てて就活を始めたものの、履歴書の内容はボロボロで、単に働かなきゃと思って受けるだけだから志望動機を聞かれても言葉につまるし、中退してサオリと過ごした二年間はニートとして過ごしているから当然印象は悪い。悪すぎる。


「そう言えば、サオリは就活どうしてたんだっけ……」


二年前、サオリが必死に就活していた時のことを思いだす。


『じゃ、面接行ってくる!』


ばっちりと化粧をして、グレーのスーツをきっちり着こなし、背筋を伸ばして企業の面接へ出かけていた。あの時はちょうど不景気で就活に苦労する学生がたくさんいた。国公立や有名私大の学生だって簡単にはいかなかった時代。俺やサオリの大学は知名度はあるものの、俗に言うエリート校というわけではなかったため、学歴フィルターなるものがかかってしまうと書類選考の時点で落とされてしまっていた。


どれだけ落とされようが明るくしていたサオリ。

圧迫面接を受けて悔しい思いをしても、笑い話にして乗り越えていた。


「くそ、また最低なことを思い出しちまった」


そんなサオリに、何も知らない俺が言った言葉を思い出してまた自己嫌悪に陥る。


『アハハー、まただめだったー』

『はぁ……ほんとに頑張ってんのかよ』


冗談のつもりだった。

それに、就活の苦労なんて知らないから決まらないのはサオリの実力不足だけが原因だと思った。


『やっぱり資格とか取るかな……今更だけど』


今思えば俺の無神経な一言を気にしていたんだろう。

卒業までの期間に簿記だの情報処理だのあらゆる資格を取って、結局卒業間近にはなってしまったものの無事に内定を勝ち取ってきたのだ。


『やっと内定出たよ!』

『……へえ』


あの時、自分で言った余計な一言を気にして素直にお祝いできなかった。

もっと一緒に喜べばよかった。

こうして自分が落とされまくるまで、面接官にこてんぱに言われるまでサオリの苦労なんて、いや就活生の苦労に気付けなかった。


「クソ、頑張れてないのは俺だよ!」


自分を奮い立たせるように両頬を叩き、コーヒーを飲み干して店を出る。

そしてサオリに会うため、あの交差点に向かった。

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