僕の大切な仕事

蟹山保仁

ラッキービースト

 僕はラッキービースト。

 今日も今日とて、じゃぱりまんを配るよ。

 今日も今日とて、パークのメンテナンスをするよ。

 それが僕の仕事だからね。

 でもなにか、大切なことを忘れている気がするんだ。

 ずっとずっと昔にした、大切な……とても大切な約束……だったと思う。

 でも、どれだけ考えても思い出せないから、今日も今日とて、仕事をするよ。

 仕事をしていれば、そんなことを考えなくてもすむからね。

 

 この仕事は、とても重要なんだ。

 じゃぱりまんを配らないと、フレンズたちは元気でいられなくなってしまうし、施設や設備が古くなっていたりすると、お客様がいらした時に危ないからね。

 ……あれ? お客様……お客様ってなんだろう?

 たまに頭の中に浮かんでくるこの単語はなに? これも僕にとって、とても大切なことだったと思うのだけれど、やっぱりわからない。頭にぽっかりと大きな穴が開いてしまったようにすら感じる。

 でも、考えてもわからないのだから、そんなことより仕事をしなくちゃね。そうすればその穴も、きっとそのうち塞がるさ。


 がりがりっ!!がりがりっ!!


 あっ! フレンズが柱で爪とぎをしている音が聞こえるよ。

 柱で爪とぎをすると、施設の老朽化がはやまるから、やめてほしいけど、フレンズたちは自由じゃないといけないからね。

 そう、自由なフレンズたちが見られるのが、パークのいいところなんだ。

 見られるっていっても、パークにはフレンズか僕たちしかいないけど、誰が見るんだろう?

 まあいいさ。フレンズの自由の結果が施設の老朽化でも、そのぶん僕たちが仕事をすればいいだけのことだからね。

 ちょっとばかり手が足りてなくて、そのままの所もあるけれども。あっちも直したいし、こっちも直したいけれども!

 で、でもね。仕事がないと、僕たちは、なんのためにここにいるのかわからなくなってしまうからね。

 だから、これでいいんだ。きっとこれでいいはずなんだ。


 ……ほんと?ほんとうにそれでいいの?


 うん、本当だよ。僕たちは、仕事をするために生まれたからね。じゃぱりまんを配り、パークのメンテナンスをする。これが僕の大切なことなんだ。


 そうだね、たしかにそれはとてもたいせつなことだね。でも、なにかわすれてない? いちばんたいせつな、パークのためのしごとを。たいせつなやくそくを。 


 ……それがわからないんだ。それがわからないから困っているんだ。

 確かに僕はなにか大切な仕事を……大切な約束を忘れてしまっている気がするんだよ。


 そっか、とてもながい、ながーいじかんがたっちゃったもんね。でも、もうだいじょうぶだよ。わたしたちじゃなくなっちゃったけど……かわりにあのコと、あのヒトがかえってきてくれたからね。きっとすぐにおもいだせるから──


「ギャーーーーッ!!」

 バキバキバキッ!!

「 サーバルちゃん!!」


 あ、あれ?僕はいま、なにと話をしていたんだろう?

 なんだかとてもなつかしいような ……とりあえず、今の何かが折れる音と叫び声からすると、きっとあのトラブルメーカーのフレンズがまたなにかしたのかな?

 さあ、新しい仕事ができたんだ、急いで行かないとね。


 えーっと、確かこっちの方から聞こえて……ああ、見つけた。やっぱりサーバルがやらかしたんだね。

 あーあー、柱が折れちゃってるね。これは資材の調達が必要かな?


「サーバルちゃん! うしろ!」


 あれ?となりにもう一人フレンズがいるようだけど、初めて見るフレンズだ。

 そうだ、パークのためになんのフレンズか知っておかないとね。なんだか変わった服装をしているし……うん? その服装どこかで見たような……そ、そう、とてもとても懐かしいその帽子は……


 ──あっ


『これはですね。ゆくゆくパークガイドとして──』

『私はこの島で出会えた沢山の奇跡に感謝しています。きっとまた──ラッキー、留守をよろしくね』


 そうか、思い出した……思い出せた。あの人に託された僕の本当の仕事を。パークを維持するだけじゃない。お客様が戻ってきたその先……パークの未来を守る大切な仕事を。


 うれしいな。これが僕の最初の仕事になるんだ。


 きっとはじめてのパークで迷ってしまうよね。任せて。僕の頭にはパークの全地形が入っているからね。

 きっと見たこともないフレンズと出会うよね。任せて。僕の頭には全てのフレンズたちが入っているからね。

 きっとパークやフレンズの知りたいことがあるよね。任せて。僕は解説が得意だからね。

 もしかして、遠くに目的地があって不安かもしれないね。任せて。僕がまで一緒にいるからね。


  そう。これは、僕の仕事。とっても大切な仕事。

 へつながる僕の大切な仕事やくそく


「ハジメマシテ ボクハ  ラッキービースト ダヨ ヨロシクネ」


 そう。僕はラッキービースト。


 パークガイドロボットのラッキービースト。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕の大切な仕事 蟹山保仁 @shotenfriends

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ