第7話 枯れない花
この街には、100年に一度咲く花がある。
私は、12歳の頃にそれを見た。
その特性から『世紀菊』と呼ばれている。口に出すとすごく言いづらい。
世紀菊、セイキギク……。
この花は、この街を守るお守りとして、昔から重宝されてきた。
100年に一度、少し山を登ったところにある神社の境内の一隅に咲く。そして、この花を宮司が摘み、街に住んでいる人たち一人一人に、その花びらを渡す。
ここの住人なら全員が持っている、小さな立方体の箱。世紀菊が咲いた時、私たちは花びらを一枚受け取りその箱に入れる。蓋は、本体と金属で溶接され、2度と開くことはない。
その瞬間、その箱は神聖なものとして崇められ、お守りとして死ぬまでそれを保管しておくのだ。
生と死を司る存在、それがこれ。
この花びらは、いずれ萎れ枯れてしまうものであり、永遠に瑞々しくあり続けるものでもある。
それを手にするのは、人生で一度だけで、何歳で手にするのかも人によって違う。
ただ不思議なことに、この街が出来てから一度もこれを手にしていない人はいないし、二つ受け取っている人もいない。
それは、暗に私たちに100年生きることが出来ないことを語っている。
私たちの生と死を、操ってしまう。
自分が死んだ時、棺の中にその箱も一緒に入れられて、一緒に燃やされる。
私たちの街にあるささやかな伝統は、きっとこれからも続いていくだろう。
だってその花は、枯れることがないのだから。
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