第5話 アーケード街、私との距離

「よう、チビ」

「ああ!?」


今できる最大限の力で睨みつける。彼はいつもそうやって私をからかってくる。


「相変わらず、眼光の鋭さは健在だね」

「うるさいな……」


私は彼が憎い。事あるごとに悪口を言ってくるのだ。

それこそ、チビ、だとか、胸がまな板だ、とか、男っぽい、とか。


しかも毎日こいつと一緒に帰らなくてはいけない。


帰り道が同じなのだ。




田舎の、売店の無い小さな駅を起点とし、車道を挟んでアーケードが二つ伸びている。


300mくらい進むと交差点にぶつかり、それぞれが90度左右反対方向に伸びていく。

私の家は、そのアーケード街の駅から100mくらいのところにある。そして、あいつの家も。


2人で学校を出て、一緒に私の家の前まで来る。その後か彼は、道路を横断して自宅に帰る。


この距離なので、幼馴染というレッテルを貼られた私たちは、その関係性に縛られ2人で行動することが多かった。


私たちには、毎日決まってやることがある。


それは、アーケードの上に上がってLINEを送り会う合うこと。


まあ別に、アーケードの上に上る必要はないのだけれど、なんとなく、子どもの頃に上って感じたあの非日常感と開放感に魅了されてしまい、結局今でも続いている。


今日も例によってアーケードの上に上る。少しすると、彼も上がってきた。

笑って手を振っている。憎たらしいやつめ。だけどとりあえず振り返しておく。


LINEが来たので返す。数秒もすればまた送られて来る。返す。


時々、彼の方をちらりと見る。相手の顔を見ながらLINEを送るというのは、なかなか変な気分だ。




彼が憎い。それなのに、彼のことが好きな私は、変わっているだろうか。




一緒に帰っているのは、帰る方向が同じだからではなく、一緒に帰りたいからだ。この習慣が続いているのも、同じ理由。


憎しみは、愛と似ている。


彼のことは嫌いだったし、悪口を言われるのもすごく嫌だった。

それで仕返しがしたくて、あいつのことばかり考えた。


憎んでいたはずな彼を、いつの間にか愛していた。


彼のことを考えずには、いられなかった。


今、目の前あるこの距離をゼロにするには、大声で、「好きだ」と叫べばいい。



私たちの間を、夜の涼しい風が吹き抜ける。


私たちしか知らないこの距離を、無くしてしまっていいのかな。



彼は、私のことをどう思っているだろう。


それを知るには、まだ、遠いのかもしれない。






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