第4話 砂漠と傘
修学旅行で泊まったホテルの話。
俺たちの泊まったホテルは、学校行事で使うにしては綺麗で美しい場所だった。汚点もきっと見つからないだろう。一泊いくらなのか、気になるけれど。
ただひとつだけ、とても不思議なことがあったなぁと、ぼんやりだが頭に残っている。
俺の部屋(3人部屋だが)には1枚の絵画が飾られてあった。誰が描いたかわからないし、美術的価値があるのかもわからないけれど、ものすごく心惹かれるものを感じていた。
砂漠に佇む1人の少女。その手には青色の傘が握られている。
ミスマッチなその景色に、なぜか目が離せなかった。
ベッドに入る。うちの班は優秀で夜更かしすることはなかったから、すぐ眠ることができた。
夢を見た。
目の前には、広大な砂漠が広がっていて、1人の女の子が立っている。彼女は青い傘を持っていた。
向き合ったまま、延々と時間が流れていく。今思えばひどく不思議なことだが、あの時の俺には彼女の感情が手に取るように理解できた。
彼女は泣きたかった。けれど、涙が出てこない。
その空間は、涙の存在さえも許さない。
彼女を唯一覆い隠し、何かから身を守るためのその傘も、存在意義を失っている。
俺は、彼女を知っている。
そう思った。
この世界に孤独で居続け、涙すら流せず身動きの取れない彼女を、俺は知っている。
この絵画のように、誰かの目にとまるのを待っている、そんな彼女を。
「またあいつ1人だぜ」
「無視だ無視」
周りから聞こえる声。
俺は、彼女を知っている。
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