第53話 闇夜
長い、長い夜が始まった。
その夜、上杉軍は空蝉となった。武田軍に気取られないよう、かがり火や紙旗、そして、僅かな兵を残して。
黒風は元の雑兵の群れの中に戻っていた。どこへ行ったのか、聞きたそうにしている者もあったが、黒風は余計な口はきかなかった。
そもそも、誰も口を開かなかったのだ。聞けない、と、言った方が早い。それは、軍全体が闇に紛れて気配を消さなければならなかったからだ。
沈黙の中、黒風は別れ際に政虎に言われたことを思い出していた。
「誓約を、覚えているな?」
「……は、」
「違えるなよ」
「肝に銘じて」
そう言って、その場を後にしようとした黒風を、政虎が呼び止めた。振り向いた黒風に、政虎は静かに言った。
「待っているぞ」
その時、浮かんだ微笑みは、以前、さやの元で見たものと、同じような気がした。
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