第33話 約束
夜の約束を取り付けた与四郎は、早手とあやねを探した。二人は一緒に最期の荷をまとめていた。あやねが荷物を持とうとすると、早手が止めた。そうして、自分が代わり、最後の荷を仕上げていた。
「与四郎」
最初に気付いたのはあやねだった。
「良かった。また、黙っていなくなったのかと思った」
「すまない。もうしないよ」
思いがけず、あやねの方から話を振ってくれた形になった。与四郎は正直、助かったと思った。
「早手も、聞いてくれ」
「聞かなくても分かるさ」
早手は不機嫌そうに言った。
「どうせ、俺の方があやねを幸せにできるから、自分は邪魔だとか思ったんだろ?」
それだけではないが、間違ってはいない。その他の理由は、与四郎の個人的なことだから、二人には関係ないと思った。
与四郎は小さく頷いた。
「早手があやねを好いていることは知っていたからな」
「な、」
早手が真っ赤になった。見ると、あやねも真っ赤になっている。それを見て、与四郎はふっと笑った。
「お前、」
早手が与四郎に掴みかかった。
「ややこはいつ生まれるんだ?」
与四郎に言われ、二人が驚いた顔をした。
「何で……」
「今、早手があやねを庇っていたし、あやねも時々腹を庇っていただろう。それに、舞も穏やかな動きのものしか選んでなかった。軽業に至っては全く」
「よく、見てるんだな」
「誤解するな。未練があるわけじゃない。でも、あやねは俺にとっては家族のようなものだ。自然と目がいくさ。早手もだ。早手も、俺には家族だ。今までも、これからも。生まれてくる子供も、俺には家族だ」
「与四郎は、」
あやねが縋るような目を向けた。それは、昔好きだった男への目線というよりは、妹が兄に向けるような目だった。それを見て、与四郎は静かに笑って首を横に振った。
「俺はここから別行動だ。野武士の仕事が入ったんだ」
「また、戦に行くの?」
「そうだ」
「何故?」
「生きるために」
「生きるためなら、旅芸人でもいいじゃない」
「そうだな」
「なら、」
「それを、知るために」
あやねは、分からない、という顔をしていた。だが、早手は分かったような顔をしていた。
「また、会えるよな」
早手がそう言って、手を差し出した。
「ああ」
与四郎がその手を握る。二人の手を、あやねが両手で包み込んだ。
「生きてね。絶対、生きてね」
「そうだ。俺たちも生きる。だから、生きよう、与四郎」
三人の脳裏に、幼かったころの自分たちが映った。いつでも一緒で、どんな思いも共有してきた。その頃の思い出。
(温かい)
与四郎は、目頭を熱くするものを、零さないようにぐっと堪えた。
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