第25話 幼心
黒風、こと、与四郎があやねに初めて会ったのは、与四郎が十の時であった。あやねは三つ下の七つ。戦で負けた雑兵たちに村が焼かれ、生き残ったのはあやねだけであったという。助けを求めて街道へ出て来たところを刃に拾われた。以来、同じように両親のいない与四郎とは兄妹のように育った。
与四郎とあやね。そして、与四郎と同じ年の早手はいつも一緒だった。早手は母を早くに亡くし、父もまた戦死した。少々乱暴な気質だった早手は村で持て余され、一座に預けられることになった。最初は心を開かなかった早手も、あやねの存在に癒され、また、年上の男としての矜持を芽生えさせ、無駄に乱暴な行為をすることは無くなった。
身軽な与四郎。舞を得手とするあやね。手品が得意な早手。三人は種類は違えど、その技を磨き合った。
そんな中、成長した三人には、自ずとお互いを意識する感情が生まれた。女一人と男が二人。あやねの心は与四郎にあった。早手の心はあやねにあった。そして、与四郎の心は。
与四郎と早手は芸の技も匹敵していて、どちらかが次期の頭になるだろうとも目されていた。自然、あやねと所帯を持てば、その可能性は高まる。一座の女と結ばれる。それは、一座に身を置くと決意したことを現すからだ。そもそも大きな一座ではない。年の頃が近いのはこの三人だけだった。あるいは、他所から連れ合いをもらい、一座に入ってもらうこともできるだろう。だが、頭として頂くなら、その妻も一座のことを良く知った人物であった方が良い。
恋心に利権が絡み、妙に複雑なことになっていた。
そんな、折だった。
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