第14話

「高村、おい、高村? 大丈夫か?」


 沢田が俺を呼んでいることに気が付いた。

どうやら昔のことを思い出しているうちにぼんやりとしていたらしい。


「沢田、すまん。ちょっと思い出してしまって……」

「いや、いいんだ。気にするな。

 ただ、お前の具合が悪くなってるんじゃないかと思って気になってな」

「ありがとな、沢田。俺は大丈夫だ」


昔と変わらない沢田のぶっきらぼうな優しさ。

それが俺には嬉しかった。


「あのさ、沢田。ちょっと聞いてほしいんだけど」

「俺でよかったらな? 聞いてやるよ」

「俺さ、美月ちゃんを利用しているのかもしれない」

「どういう意味だ?」

「俺はさ、美雨が死んだのは、俺のせいだ、ってずっと思っていたんだ。

その思いが消えないところに美月ちゃんが現れた。

俺は、美月ちゃんに優しくしてやることで、そして何でも願いを聞いてやることで

美月ちゃんを通して美雨に謝っていたんだと思う。

美月ちゃんを美雨の、妹の身代わりにしていたんだ。

そんなこと、美月ちゃんには何の関係もないのに。

美月ちゃんは俺のことを『優しい佑にいちゃん』って言うけど。

本当は違うんだ。本当の俺はずるくて、卑怯で。

どうしようもないヤツなんだよ」


 沢田は俺の話を黙って聞いていた。

残ったコーラをすすると、一呼吸して話し始めた。


「お前がさ。その美月って子の中に美雨ちゃんの面影を求めていたとしても

誰にも責められないと俺は思うぞ?

そりゃ、褒められたことじゃないかもしれないけどさ。

それに理由はどうあれ、美月って子にとってお前は『大好きなおにいちゃん』

なんだ。たとえ美月ちゃんを妹の身代わりにしていたとしても。

お前が彼女にしてやれることを精一杯してやったらいいんじゃないか?」


 沢田の話はもっともだった。

その通りだ。例え美月ちゃんを妹の身代わりにしていたとしても

彼女には何の関係もない。

俺は俺にできることをしてやることしかできないんだ。

美月ちゃんが不安な気持ちを抱いているなら

俺は彼女の彼女を気持ちを落ち着かせるよう、努力するしかない。


「そうだな、沢田。お前の言う通りだ。

話を聞いてもらえてなんだかスッキリしたよ。ありがとな、沢田」

「よせよ、なんか照れるじゃないか。 

ま、オレ様にできることなら手伝ってやるから、いつでも

相談してきなさいっ!」


 その話し方がなんだかおかしくて俺は笑った。沢田も笑った。

やっぱりイイ奴だ、こいつは。コイツとはずっと付き合っていきたいと思う。


 すると、俺の鞄から携帯電話の着信音が聞こえてきた。

開いてみると、母さんからだった。


「ああ、佑樹? 今学校の帰り?

 悪いんだけど、幼稚園に美月ちゃんを迎えに行ってくれないかしら?」

「え?だって琴子さんは?」

「琴子さんは実家の御両親のところに行ってるのよ。

 なんか急に具合が悪くなったんですって。遠いから急には帰ってこれないし。

 私もパートのほうで急ぎの仕事が入っちゃって、どうしても行けないのよ。

 幼稚園のほうには事情を話してあるそうだから。佑樹、お願いっ!」


早速、俺が美月ちゃんにしてやれることがみつかったらしい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る