第8話
美月ちゃんの御期待に応えるべく、彼女の背中と膝裏に手を伸ばし
そっと抱き上げた。
美月ちゃんは心底嬉しそうな笑顔で、俺の腕に体を預けている。
そうか、世間ではコレを『お姫様抱っこ』というのか。知らんかった。
こんなもんがそんなにも嬉しいものなのか?
「ねぇ、このまま佑にいちゃんのお部屋につれてって!」
「へいへい」
「ヘイヘイなんていわないで! 『王子様』みたいに話してっ!」
さっきまで笑っていいたのに、今度はぷりぷりと怒り出す。
わけがわからない。
『王子様』って言われても、俺は王子様じゃなくて平凡な
高校生ですから、どう話したらいいのかわかりませんよ。
仕方なく、昔見た童話の世界の王子を必死に思い出す。
「では、美月様。わたしのお部屋に参りましょうか?」
「ハイ、王子様。よろこんで!」
なんとも珍妙なお姫様ごっこをしながら彼女を俺の部屋に連れていく。
美月ちゃんは俺の部屋にしまってある昔のアルバムや本やマンガ、DVD
を見るのが好きなので、彼女が俺の家にいる日の夕食後は俺の部屋に
行くのが恒例になっていた。
(無論、Hな本やマンガは秘密の場所に隠してある)
俺は自分の宿題などを片付け、時間があれば彼女と遊んでやる。
たいしたことはしていないのだが、美月ちゃんはこの時間が一番嬉しいらしい。
母親の琴子さんが迎えに来たときにはすでに寝てしまっているときもあるので
その時は俺が美月ちゃんを抱き上げて、じゃなかった、『お姫様抱っこ』して
お隣まで連れて行く。
その日も俺は宿題をざっと片付け、手が空いたので美月ちゃんと
遊んでやろうと振り返った。
すると、そこには美月ちゃんが立っていて、俺をじっと見つめていたのだ。
どことなく寂しげな、訴えるような目線だった。
「ど、どうしたの?美月ちゃん。ずっとそこにいたの?
俺の手が空くのずっと待ってたの?」
コクンとうなづく美月ちゃん。
見慣れないその表情に戸惑った俺はなんだか落ち着かない。
「い、一緒にアニメDVDでも見ようか? 新作が手に入ったんだよ?」
「ねぇ・・・佑にいちゃん」
「ん?どうした?」
「あのね、わ、わたしに……して……」
「へ? 何をしてだって?」
肝心な部分がハッキリと聞き取れず、思わず聞き返した。
とっさに彼女の方に耳を傾ける仕草をとる。
美月ちゃんは頬を赤らめながら、そっと俺の耳にささやいた。
「あのね、みづきにね、キス……して?」
はぁ、キスね。『キス』なんてタイトルのDVDあったかな。
いや、違う、美月ちゃんは『して』って言ったんだ。
『キスして』って。キス、キス?
な、なんだってぇぇ~!!
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