第7話

 婚約式の翌日。

その日の夕食のメインは呪いの人形であった。

……ではなく。

どうみても木炭か、呪いの人形にしか見えないハンバーグがメインだった。

『花嫁修業』と称して、美月ちゃんがこの日の夕食作りに参加しており

俺の分のハンバーグは美月ちゃん作った。

『クマちゃんハンバーグ』にしたかったから、らしい。

たしかにハンバーグは俺の大好物だ。

しかし、いかに好物とはいえ、これはあまりにも。

俺が真っ黒なハンバーグをみつめて言葉を失っていると、美月ちゃんが

不安そうに声をかけてきた。


「佑にいちゃん、みづきの作ったハンバーグ、食べてくれないの……?」


 そんな泣きそうな目で見られては何も言えない。

俺は覚悟して真っ黒ハンバーグを切り分け、口に放り込んだ。

ジャリジャリ、ゴリッ。

おそよハンバーグを食べている音とは思えない奇っ怪な音を感じながら

無理やりその物体を飲み込んだ。


「うん、おいしい……よ」


 美味いわけはないのだが、そう言うしかないじゃないか?


「よかった!たくさん作ったから、いっぱい食べてねっ!」


美月ちゃんは嬉しそうに笑う。

そうか、まだ沢山あるのか。俺のほうが泣きたいよ……。

 ふと台所の隅を見れば、母さんが必死で笑いをこらえているのが見えた。

くっそ、人ごとだと思いやがって。誰のせいだと思ってるんだよ?


 その後も美月ちゃんの手料理は続いた。

石にしか見えないガッチガッチの唐揚げやら、破裂してもはや

何の料理かわからない餃子やら。

大量の水を片手にそれらを必死に呑み込む日が続いた。

俺の胃袋は一体いつまでもつだろうか?


「ねぇ、佑にいちゃん、『お姫様だっこ』してほしいな……」


 その日も美月ちゃんの手料理を食べさせられて、ぐったりとソファーに

もたれて休んでいると、美月ちゃんがそっと近づいてきて俺にささやいた。

お姫様抱っこ?

俺は何のことだかわからず考えこんでいたら、母さんが慌てて

俺の側に来て言った。


「体を仰向けの状態のまま横抱きすることよ。

アンタが寝ちゃった美月ちゃんを運ぶときに使ってる抱き方、

覚えてるでしょ?」


 言われて、寝てしまった美月ちゃんを運ぶ光景が頭に浮かんだ。

そうか、アレを『お姫様抱っこ』というのか。


「まったく、アンタは鈍いんだから。そんなことも知らないの?」


 母に小馬鹿にされたが、知らないものは知らない。

しかし、なんで今さら美月ちゃんはその『お姫様抱っこ』をして

ほしがるのだろうか?

よくわからないが、期待された目で見つめられていては応えないわけには

いかなかった。

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