第2話

「あ、あのね、ちょっと落ち着こう? 美月ちゃん」


 体をぴったりと寄せ、潤んだ瞳のまま俺を見上げている6歳の少女。

その目は恋した女たちと何ら変わらない(のような気がする)から驚きだ。


「どうして? みずきが佑にいちゃんのこと『すき』っていっても

 信じてくれないの?」


 いや、信じる信じない以前に、この状態はまずいだろうっ!

6歳の幼女が高校生の男の体の上に乗っかるようにして、愛の告白をしているのだから。

 早く俺の上からどいてくれ!とストレートな言葉が口から出かかったが

俺は必死にそれを飲み込んだ。

そのまま言えば、美月ちゃんを深く傷つけてしまうだろうから。


「いや、その、美月ちゃんのことを信じないわけじゃないんだよ。

 たださ、俺も男だからさ。

 男として、こんな状況を軽々しく受け入れるわけにはいかないっていうか。

 え~っと。とにかく、一旦離れよう?」


 幼女に対して言い訳めいた釈明をしつつ、俺は倒れかかった体を起こし

美月ちゃんの肩を掴んで、そっと俺の体から引き離した。

 あまりに不自然なその状態から少しだけ抜け出せて、やっと落ち着いて呼吸

ができる気がする。

しかし、状況が変わったわけではない。

あの真剣な眼差しから考えて、美月ちゃんが嘘をついているとは考えにくい。

いや、いっそ嘘であってくれたほうがどれだけいいか。

おそるおそる美月ちゃんの様子を伺えば、うつむいて肩をふるわせている。

泣かせてしまったのか……?

しかし真っ当な男なら、幼女からの告白を受け入れるなんて出来ないはずだ。

(一部の男は大喜びなのかもしれないが)


 うつむいた美月ちゃんからやがてすすり泣く声が聞こえ出した。

やっぱり泣いている……。


「あ、あのね、美月ちゃん」


 告白を受け入れることはんできなくとも、幼女を泣かせてしまうのは

なんとも気分が悪い。

どうにかしてなだめたいが、いつものように頭を撫でてやっても

いいものかどうか。

それさえ悩む。

俺は一体、どうしららいいんだ。

頭を抱え込むようにして悩んでいると、美月ちゃんが先に言葉を発した。


「佑にいちゃん、みづきの思いをわかってくれないだ……。

 みづき、まだ小さいけど本気だよ?

 前にテレビで見たもの。

 すごく歳の離れた男の人と女の人が結婚していたりするよ?」


 いや、それは両方が大人だから許されるのであって。

たしかに芸能界だとかでは、かなり年上の男(熟年)と

若い女性が結婚していたりする。

それは嘘ではない。本当のことだ。

しかし、相手が幼女で、しかもその幼女の想い人が高校生だなんて。

そんな恋愛、あるわけがない。

妄想の世界ではあるのかもしれないが、現実であっては

いけないことだ(と思う)。


「あのさ、美月ちゃんが俺のことを『好き』って

 言ってくれるのは嬉しいよ? 

 でもね、それを簡単に受け入れるわけにはいかないんだよ。

 俺にとって美月ちゃんは……家族のような大切な存在だから。

 いい加減に扱いたくないんだよ。

 そこのとこ、わかってくれる?」

「みづきのこと、大切なの? 」


 すすり泣いていた美月ちゃんの涙が止まった。

よしっ!泣き止んだぞ。


 「そうだよ、美月ちゃんは『大切な子』だ」


 再び泣かせたくなくて、慌てて言葉を続けた。


 「うんっ! みづきにとっても佑にいちゃんは『たいせつな人』。

  佑にいちゃんにとってもみづきは『たいせつな子』。

  だったら、二人は『りょうおもい』だねっ!」



 ……どうしてそういう解釈になるんだぁぁ~!!


「うれしいなっ♪ 佑にいちゃんとみづきはりょうおもい~」


美月ちゃんはまるで歌うかのように、ご機嫌でつぶやいている。


「じゃあ、またね! 佑にいちゃん。

 明日もまた、みづきと遊んでね!」


 軽やかなスキップで俺の部屋を出ていく美月ちゃん。

あまりな展開に呆然としている俺を一人残して。 


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