第80話 エピローグ

「最近セイジに避けられている?」

「はい……」


 シュンとした表情を見せるシュマ。

 なんでも腕にギュッと飛びつくと、今までなら仕方ないなぁって顔で撫でてくれていたのが、そっぽを向いて少し離れたり。

 ご飯時分に正面に座ってニコニコしていても、無言でこっちを見てくれないとか。


 それって……


 というかそんな話、恋敵である自分に言ってくる事じゃないですわよね。って呟く姫様である。

 コレはあれですよぉ、きっと勝者の余裕ってやつでしょう。とか、姫様もこれぐらい素直な面を見せていたら。とか、侍女が耳打ちしてくる。

 そんな侍女を舌打ちしながら蹴り飛ばす姫様。


 さてここはどうしたものか……と思案を巡らす。

 コレを利用して……いやいや、前回失敗したばかりですし。ここは大人の女を演じるといたしましょうか。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ほらあ~んして、ほら、私が食べさしてあげるっ!」


 今日のお嬢様は随分ご機嫌なご様子。

 隣にべったりとくっついてきて離れやしない。


「うふふ、セイジが~、むふぅ~、私のことぉ~」


 両手を頬に当ててイヤイヤとかぶりを振る。何が変な物でも食べたのだろうか?

 そういや午前中に姫様のとこ行ってたな。

 またあの姫様、お嬢様に変な事吹き込んだんじゃないだろうな?


「セイジ、いつまで食べてるジョ! そろそろパレードが始まるジョ!」

「ウスッ!」


 本日はダンジョン攻略の記念パレードだ。

 ここで王子とシュマお嬢様に扮したカリュリーンさんの婚約発表が行われる。

 それには当然、ダンジョン攻略を行ったメンバーが勢ぞろいしなくてはならない。


「いってらっしゃいセイジ」

「本当によいのかじょ?」

「うん! 私、今が最高にシアワセッ!」


 なぜか最近、そんな幸せそうな笑顔のシュマお嬢様を見ていると顔が火照ってくるでござる。

 シュマお嬢様はカリュリーンさんと入れ替わりなので1人ここでお留守番となる。


「お嬢様は人がデキてんな。俺だったらゴネて大変だったぜ?」


 フォルテよ、それは思っていても言わない方がいいぞ。


「それじゃ私は、姫様のとこ行っときますね」


 姫様とも仲良くなれたのだろうか?

 ほんと今日のお嬢様は随分楽しそうである。


◇◆◇◆◇◆◇◆



◆◇◆◇◆◇◆◇


『装填・劣化ウラン弾! 3点バースト!』


 岩の様な外装をしたトカゲに幾つもの穴が空く。


『装填・ホローポイント! フルオート!』


 空を舞う怪鳥が次々と撃ち落されていく。


『装填・成型炸薬弾!』


 鋼鉄の様な分厚い扉に大きな穴が空く。


 それらは全て1人の『少女』がもたらす惨劇。

 少女の手に持つ、一丁の銃から放たれし弾丸。

 その少女は呟く。


「やっと……やっと、ここまで来ました……」

「お嬢様、何もこんな日にボス戦になど挑まなくとも……」

「そうだぜ、今日はお嬢様の16歳の誕生日だろ?」


 振り返った少女の瞳は、どこまでも暗く、深く、まるで亡霊の様な瞳。

 数ヶ月前までの花が咲いたかのような笑顔は、あの日、あの時をもって、消えてしまった。

 そう、少女の目の前で、1人の少年が光の柱となって消えた日。


 祝勝パレードが終わり王宮に戻ってきた少年へ向かって、最大級の笑顔で駆け寄る少女。

 だがその瞬間、少年から光の柱が立ち昇る。

 危機を察した少女は無我夢中で少年に駆け寄る。


 しかし……その手が柱に触れようとした時、全ては掻き消える様に消えてしまった。

 1丁の銃を残して。


「そんな……、一体何が……?」

「聞いたことがあります……女神に導かれた勇者は、その役目を全うしたとき、元の世界に戻る事が出来るのだと」

「そ、それじゃ、せ、セイジは……?」


 首を左右に振る、とある小国の姫君。

 絶望に染まる少女。

 震える手で少年が残していった銃を手にとる。

 そこから先は少女の記憶には無い。気が付けば体中傷だらけで、ベッドに縛り付けられていた。


「シュマ、落ち着いてよく聞きなさい。希望はまだあるのです、ヤケを起こして自傷するなど愚の骨頂」


 姫様がそう少女に諭して聞かせる。


「その銃を持って未踏ダンジョンを攻略しなさい。勇者の持つ神器を用いれば、女神と交信することが出来るはずです」


 少年は未踏ダンジョンクリア後に女神より神器を頂いている。

 ならばその時、女神と会っているかも知れない。

 同じように神器を持ってダンジョンクリアすれば、女神と会うことが出来るかもしれない。


「そこで願いなさい。彼の居る場所に連れて行って欲しいと」


 少女はその希望だけを頼りにダンジョンへ向かう。


「バシリスクの集団にメドゥーサだと……!?」

「くっ、こんなの無理じゃ!」

「下がってなさい」


 1人ボス部屋に入っていく少女。


「お嬢様!」

「目を瞑っていればなんて事もありません。こいつらは……この銃にとってはカモでしかないっ!」


『赤外線スコープ・ON!』


 目を瞑ったまま次々とモンスターを打ち抜いていく少女。


「すげぇ……」


 成型炸薬弾によって上半身が吹き飛ぶバシリスク。

 劣化ウラン弾によって穴だらけにされるメドゥーサの顔。

 その銃撃は正確無比。ただの一発の無駄弾もない。


「もしかして兄ちゃんよりすげえぇんじゃね?」

「まさしく鬼人がごとき様ですね」

「だれか止めろよぉ」

「あっはっは、僕こういう時どう言うか知ってますよ?」


 皆の声がはもる。「もう、なるようにしかならない」と。


 全てのモンスターを撃ち据えて少女は叫ぶ。


「女神よ! 居るなら答えて欲しい! 私のセイジをっ、返してください!」


 その瞬間、少女の目の前に半透明なウィドウが浮かび上がる。

 そこには、


『LevelUp! BonusStage!』


 と虹色のタイトルの後に、


『ダンジョン攻略おめでとうございます! あなたに以下のアイテムを授けます。選択してください』


 というメッセージが。


 セレクトA:金のセイジ


 セレクトB:銀のセイジ


「どちらも要らない! 普通のセイジがいいのっ!」


 その瞬間、少女の前に目も眩むような光の柱が立ち昇る。

 その光が収まったとき、そこには……呆然とたたずむ少年が! ボロボロの服に、手には新たな銃を持っている。

 強張っていた少女の顔が徐々に崩れだす。


 堪えきれなくなった少女は大声で泣きながら少年に抱きつく。


「えっ、シュマ、お嬢様?」


 驚きで溢れていた少年の顔が、徐々に愛しい者を見る目つきに変わる。


「セイジっ! 会いたかった! 会いたかったよぉ!」

「オレも、会いたかった。そして、伝えたかった」


 少女が顔を上げる。


「シュマお嬢様、オレと、一緒。結婚、してください」


 ぐしゃっと笑顔でくずれる少女の顔。


「私もっ、私も結ばれたいっ! セイジとっ! ずっと一緒に!」


 そう言って大粒の涙を流しながら満面の笑みを湛える少女。


「兄ちゃん! キッス、キッス! キッスッ!」


 突然少女のパーティメンバーの1人がそう言いだす。

 そうすると残りのメンバーからも「キッス、キッス」の大ウェーブ。


「フォルテの奴……」


 苦笑いで少年はその言いだしっぺを見やる。

 腕の中の少女は目を瞑って唇を突き出してくる。

 そんな少女に、そっと口づけをする少年であった。

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