第79話 そこまでされて落ちない男はいませんよね

「とにかくセイジ! なんとかして欲しいんだじょ!」


 そう言われましてもねえ……

 もはや駆け落ちぐらいしか選択肢が残ってないんじゃないでしょうか?

 これをそのまま伝えるのもまずいよなあ……


「とりあえず、考えてみる」

「期限は一週間後のパレードまでじょ。そこで大々的にシュマ嬢をボクチンの婚約者として発表するらしいじょ」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「これが神器『身代わりの護符』でありやす」


 王子のパーティメンバーのスカウト役をしていた人が懐から一枚のお札を取り出す。


 オレがうんうん唸りながら王宮を練り歩いていたとき、この人から呼び止められた。

 なんでも悩みがあるなら自分がお聞きしましょうかとか。

 頭の上を見ると青い旗だったので、とりあえず話だけでもしてみる事にした。

 するとだ、解決方法がある。とのこと。


「本来の使い道は、致命傷となるダメージを負ったとき、一度だけ身代わりをしてくれる物ですが……」


 まあよくある、死んだとき一度だけ蘇れるマジックアイテムみたいなもんか。


「実は裏の使い方がありやして」

「裏?」

「文字通り身代わりとなりやす」


 その裏の使い方とは……存在を入れ替える事が出来るんだと。

 真っ二つに割って持っていると、周りの人から見て、カリュリーンさんとシュマお嬢様の認識が逆転してしまうらしい。

 よく、腹黒い人達が影武者を作るときに用いているとか。

 まあ、完璧じゃないんで身内とか近しい人だとバレるのだが、それでも大勢は騙せるらしい。


「これでカリュリーンとシュマ嬢の立場を入れ替える……?」

「そうなりやす」

「分かった、まずはパパに相談してくるじょ!」


 王子様のお父様も最初は渋っていたが、息子には甘いようで最後は折れてきたらしい。

 母親の方はシュマお嬢様を大層気にいったらしく、最後まで粘っていたようだが、駆け落ちするジョ! っていう王子の脅迫に折れたようでございます。


「それで、こちらは何を差し出せばよいじょ」

「そちらの腐食の短剣を頂けますでしょうか」


 スカウトの人はフォルテの短剣を指差す。

 最後の王様ゴーレムを腐食させた時点で目をつけていたご様子。

 あの、神器ですらかすり傷しかつかないゴーレムを腐食させた能力。

 これがあれば、どんな鍵でも、宝石箱でも、自由に開けることが出来るとか。

 なるほど、そういう使い方もありっすか。


「スカウトにとって鍵開けは命がけでしてね、それがあればそういう問題も解決しましょ」

「え~、やだよぉ」


 当然フォルテはごねる。


「これじゃダメでしょうか?」


 そんなフォルテを見かねたシュマお嬢様が自分のティアラを差し出してくる。


「攻撃魔法無効化の魔法が掛かっています。これなら罠にかかってもダメージを負うことは・」

「「攻撃魔法無効化だってぇ!」」


 周りの方々が驚かれているで候。


「そんなもの聖盾レベル? いやどれだけの魔法が無効化できるかによるが……」

「少々試させてもらっても?」


 草原に向かい王子がフレアを発動させる。

 しかしティアラがある周辺はまったく焼け焦げていない。


「エクスプローションを試してみてもいいかジョ」


 王子がエクスプロージョンを唱える。

 やはり同様、ティアラ周辺はまったく無傷である。

 ただのヘアピンが随分レベルアップしたようだな。女神様も大奮発だったのかもしれない。

 そんだけ前回のダンジョン攻略をさせたかったようだ。


「しかしいいですのシュマ? あれほどの神器、頭に被るだけっていう聖盾どころではない価値がありますわよ」

「そうだじょ。それに……カリュリーンと立場が入れ替わるってことは……」

「構いません! 私が欲しいのは名声でもお金でもない……そう、私が欲しいのは只一つ!」


 そう言いながらチラチラとこっちを見てくる。


「ふう、まったくあなたには負けますわね」

「おやおや、このままだと姫様は置いてけぼりですかねえ」

「なっ、まだまだ頑張りますわよっ!」


 何を頑張るのよ? 姫様の頑張りはいつも斜め上、行きすぎだと思います。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「おう、どうしたセイジ。何? ダンジョン探索を手伝って欲しい?」

「うすっ」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「えっ、……コレ」


 オレは羽飾りの冠をシュマお嬢様に差し出す。

 アレから、ラルズさんとライラックに手伝ってもらってA級ダンジョンを一つ攻略してきた。

 そして神器を一つ増やしてきたのだ。


「セイジ……私の為に……!?」


 なんだかんだでティアラを渡す時のお嬢様、目に一杯涙を溜めて手が震えていた。

 やはり悲しかった模様。

 とりあえず能力は何もついてはいないが、見た目だけは良さそうな冠、きっとシュマお嬢様に似合うだろう。


「っつ、……ありがとう」


 大粒の涙を流しながらオレにしがみついてくる。

 オレはそんなシュマお嬢様の頭に冠をかぶせる。


「うん、似合っている」

「っっーー! うん! うんっ!」


 ぐいっと袖で涙を拭ったお嬢様は急いで姿見の前に行き、くるくる回る。

 大変喜んで候。頑張った甲斐があった。


「今度こそ一生大切にするねっ!」


 そう言って花が咲いたような笑顔を見せるお嬢様。

 その瞬間、オレの胸にも何かが咲いた気分がした。

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