第78話

「ところで、ここから出るのはどうしたら?」

「そうですね、そろそろ砂も消えてる頃でしょうし」


 お嬢様の話では、キャッスルゴーレムは倒されると砂となり、暫くすると魔石を残して消えるそうな。

 で、外に出てみた訳だが……とっても大きな魔石さん。オレの身長より高いやぁ。

 これどうやって持って帰るの? えっ、魔法で浮かす? 二人がかりで?


 つ~ことは……はいはい、手榴弾量産しときますよ。


 と、覚悟を決めて地上へ向かって戻り始めたのだが、モンスターどもが寄ってきません。

 どうやらこの魔石、モンスターを追い払う効果がある模様。


「そこまでは書かれていませんでしたが、キャッスルゴーレムっていうぐらいだから、きっとモンスターにも恐れられているのかもしれませんね」

「お城って私達下々の人から見たら、魔窟と一緒ですしね」

「魔窟かぁ……いいえて妙かもしれないねぇ」


 そのおかげですんなりと地上に戻れた。

 その地上では……


「良く……ほんとうに良くやったなファイハク」

「あなたは私達の自慢の息子ですよ」


 王子様のご両親である王様達が満面の笑顔で出迎えて来ていた。

 道中会った冒険者さん達が先に知らせに行っていた模様。

 王様達の背後には、お城中の兵隊さん達が詰め掛けて来ているようだ。


「父上……ぼくち・いえ、私は遂に、我が王家の長年の夢である、この未踏破ダンジョンを攻略いたしました! これでカリュリーンとの仲も・」


 王子様がそう言い出した瞬間、王様達が急に慌て出す。


「そうであった、そうであったな! うむ! 素晴らしき事かな!」

「そなたがシュマ・アンベルクかえ。良くわが子ファイハクを支えてくれた、そなたこそ王妃として相応しい。これからもわが子を支えてやって欲しい」

「えぅ? えっ、えっ? ええっーーー!」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ひィーめェーさぁあーまぁあああーー!」


 ――ガクガクガクッ!


「きゅ、急にどうしたのからしらシュマ?」


 王宮にすっ飛んで帰ったシュマお嬢様は真っ先に姫様の部屋へ赴き、がくがくと揺さぶっておいでだ。


「ど、っどどど、どういう事なんですかぁああ! なんで私が王子の婚約者になってるんですかぁあ!」

「わ、わたくしは何も知りませんことよ。ホホホ・ちょっ、苦しい」


 知らないはずはないでしょう。ついこないだまでは姫様が婚約者だった訳だし。


「さすが姫様、恐ろしい子ですわ」


 侍女のモルスさんが呟いている。恐ろしいにも程がある。


「せぇーいぃいーじぃいいーー!」


 そこへ王子様も駆け込んでくる。

 こんどはなんスか? オレを揺さぶっても何も出ないっすよ?


「酷いんだジョー! パパがカリュリーンとのことを認めてくれないんだじょぉおお!」


 それをオレに言われましても……

 さすがに地方の領主と大国の王子様では状況が違いすぎた模様。

 むしろ世界中から注目されている状況で、孤児の従者を正妻には置けないんだと。

 なのでとりあえずはシュマお嬢様を正妻に置き、カリュリーンは妾として迎えればいいとか言われたようだ。

 ちなみにそんな理由で小国の姫君である、エリザイラ姫様とも縁が切れる事になったらしい。


「ほ、ほら、わたくしの所為ではないでしょ?」

「こうなることは予想されていたのでは?」


 姫様は窓の外を遠い目で眺めながら「今日はいい天気ですねぇ」って呟いている。

 あからさまにごまかして候。


「というか、なんで、シュマお嬢様?」


 姫様はビクッと一瞬硬直する。

 何かやりやがったなこの姫様。

 全員の視線が姫様に向く。


「い、いえ、別にぃ~、」


 目線が定まってイマセンヨ?


「どうせ婚約解消の話が出たときにシュマお嬢様をねじ込んだのでしょう」

「ちょっ、ちょっとモルス、あなたどっちの味方!?」

「いくらなんでも心象が悪すぎです! どうせシュマお嬢様が居なくなればわたくしが、って思っているのでしょうが」


 侍女の方は姫様に説教をし始めた。

 ほんと姫様は恋愛ごとに疎いにも程があるとご立腹のご様子。


「そんなんじゃ、たとえシュマお嬢様が脱落したとしても、決して姫様はセイジ様に選ばれませんよ」

「ぅ、うう、だってぇ……」

「だってもへちまもありません!」


 シュンとした姫様を見るは初めてだな。

 ちょっとは反省しているのだろうか?


 その後、姫様が話してくれるには、婚約が解消されるとして、大国との接点がなくなるのは惜しい。

 あっ、そういえばわが国の貴族であり英雄であるシュマが居るじゃないかあ。

 パーティ内でラブラブになるのはもはや定石。というか、これは一石二鳥じゃね? とか思ったようである。


「なのでほら、ちょっとばかりご進言を……」

「でも姫様がダメなら私だってダメなんじゃないですか?」


 自分は小国の姫どころか、小国の地方の領主、の跡継ぎですらないただの小娘。貴族であるというだけなのに。って言っている。


「シュマ、あなたはかつて英雄達が打ち立てた最速ホルダーを若干15歳で更新しました」

「そうですね。それにSSS級未踏ダンジョン『死者の辿り着く終焉』攻略メンバーのパーティリーダーであります」

「かつ、今回のSSS級未踏ダンジョンでも十分な手柄を立てている」

「そうだじょ。キャッスルゴーレムの攻略はシュマ嬢のお手柄だジョ!」


 シュマお嬢様は目をパリクチとして気の抜けた顔をする。


「はっきり言って今のあなたは……英雄の中の英雄。よっ英雄王!」

「全冒険者の憧れの的。十分王子様の后役として相応しい」

「あっ、そういえは忘れてたじょ。これ渡しとくじょ」


 何でしょうかコレ? なんかキラキラ光る板の様な。


「S級冒険者の証だじょ」


 材質はミスリスだと。こりゃすげぇ、オレ達一気に冒険者の頂点ッスか?

 良かったですねお嬢様。英雄王、なれたじゃないっすか?

 えっ、違う? こんな展開は望んでなかった? まあ、そうでしょうねぇ。

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