第65話

 ところで王子様、このような所に来ても大丈夫なので?

 姫様が、大国の王子に面会など、かなりの手順が必要だとおっしゃられていたのですが。


「エリザイラ姫はボクちんの婚約者じょ。いつ来ても問題ないじょ」


 オレは半眼で姫様を見やる。

 姫様は、どこふく風かと知らん振りをきめこんでござる。

 まてよ、つ~ことは昨日、言ってた、オレと姫様が婚約者ってのも……


「セイジ様はエリザイラ姫様の御付となっております」


 ひめさまぁああ!

 あさっての方向を見ながら知らん振りを決め込んでやガル。

 ほんとあんたは大物だよ。でもあんまり嘘ばっかりついてると狼少年ならぬ狼少女になっちゃうぞ。


「それよりセイジもボクちんのダンジョン攻略に手を貸してくれるのかじょ」

「王子様、親友、オレ、助ける」

「ありがたいじょ!」


 王子様がヒシッとオレに抱きついてくる。


「実はボクちんとても心細かったじょ。カリュリーンも居ないし、心の置ける人物がいてとても心強いジョ」


 どうしてカリュリーンさんは連れて行かれないので?

 ふむふむ、とても危険な所なので愛するカリュリーンは連れて行けないと。

 カリュリーンさんもダンジョン探索なんてやったことないので、ついて行っても足手まといになるかもしれないから強くは言えないとか。


「セイジはボクちんのパーティメンバー決定だじょ。だから今日の試験は行かなくていいじょ」


 いえいえ、きちんと出席しますよ。コネ入社は後々こじれる元ですからね。


「え~でも、その、セイジの魔法はちょっと地味・こほん。見る人が見ないとわからないじょ」


 ふっ、一体いつの話をされているので、今のオレは、あの頃のオレとは一味も二味も違うんスよ~。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「おおっ、これは凄まじい威力だ!」


 威力はさほどでもないんですがね。

 最初に岩を砕けって実技が出された。

 今までのオレなら劣化ウラン弾で貫通させるだけだったのだが、


「なんという派手な攻撃、これならばモンスターもイチコロであるな」


 その岩ちょっとしか欠けてないけどな。

 岩に向かって花火手榴弾を大量に投げ込んだのだ。

 色とりどりの花火が炸裂する。『派手さ』だけなら誰にも負けないであろう。

 実際の威力はまあ……そこそこですよ?


「さすが英雄といわれるだけのことはある。これなら一番手はかの者に決まりだな」


 なんていうか、この世界の人々は派手だとダメージが大きく見えてるのかもしれない。

 岩を貫くだけの貫通弾、かなり凄いと思うんだがなあ。

 オレは周りの方々の歓声に答えながら控え室へ向かう。


「大道芸ですね、あんな物では足手まといにしかなりません」


 と、オレと交代で入られる女性に、すれ違いながらそんなことを言われる。

 まあ確かに、手榴弾、前衛の邪魔にしかならないだろう。

 使いどころは先制攻撃の初手に、敵の塊に投げ込むことぐらいではないだろうか。


 唯一の救いは、罠にも使えそうってことか。

 この手榴弾、任意の時間で起爆できる。投げた後すぐでも、数分後でも、思いの様だ。

 地雷として設置しとくことも可能ってことだな。


「お次はいよいよラストバッター、そして今回のメインイベント! かの剣姫、世界で最も美しいといわれている、レミカラート・ライスント様だぁ!」


 会場が大きく盛り上がってござる。

 つ~か今、剣姫って言わなかったか? なんで魔法使い枠にいるのよ?


「レミカ様は魔法剣士だ。魔法剣士は剣士として扱われない、なにせガチで斬りあってる時に飛び道具とか……なえるだろ?」


 なるほど。説明ありがとうモブなお方。

 それでも魔法使い枠とはどうなのか。えっ、オレが言うなって? ごもっともです。


 そのレミカ様が岩の方へ向く。


 まず一閃。

 岩が真っ二つに割れる。

 そして二撃目。

 岩が中に浮く。

 次に三撃目。

 レミカ様が駆け抜ける。鞘を収めた瞬間、岩がバラバラに。


 会場が一瞬静まる。あんたはどこの五右衛門だよ。

 次の瞬間、大歓声が会場に木霊する。


「これは荒れますねえ、まさかここまでとは……」

「まったく宮廷魔術師様の出来レ・こほん、今回の催しに飛び入りで入った二人が優勝候補とは」


 おい司会者、今、出来レースとか言いそうにならなかったか?

 会場の中心にオレとレミカ様、そして仏頂面のおっさんが呼ばれる。

 どうやら今回の催しは、このおっさんが始めた模様。

 自分の力を内外に示し、王子様にいいところを見せようとしたらしい。

 司会者の方がこっそり耳打ちしてこられたでござる。


 ということで辞退お願いしますとのこと。

 そんなこと言われてもなあ、むしろオレは確定組で、それこそ出来レースみたいなもんだし。


「王子様、さあ、どなたを選ばれますかな」

「うむ、余と年も近い、セイジを選ぶとする」


 王子様! オレ18歳! 18歳っすよ! あんた14だろがっ。王子様にまで中学生くらいにしか見られていなかったのか……

 どうしてだろうな……オレ、そんなに背が低い訳ではないのだが……ま、まあこの世界の人々に比べたら低いほうかも?

 ああそういや、日本人は西洋人から見て幼い顔立ちに思われるんだったか?


「お待ちください、今回の試練はいつもと違いまする。最も有用な人物をお選びいただきたい」


 おっさんがそう言ってくる。


「セイジは最も有用であるぞ」


 王子様! やっぱり分かっていらっしゃる。


「それでも子供、やはりこのような年若い者をかのような危険な場所に向かわすのは、およしになられた方がいいと思います」


 レミカ様もそう言ってくる。もういいよ、もう子供でいいっすよぉ。

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