第63話

「まさか未踏ダンジョンの攻略に一月も掛からないとはね……さすが勇者といったところか」

「しかもヴァンパイアの新たな生態まで報告ときました。これだけでも表彰ものですわ」

「姫様、セイジ様には回りくどい事をせずに、ストレートがいいと思います」

「うっ、わ、分かってます!」


 姫様は真っ赤な顔でブツブツと呟いておられる。

 性格が捻じ曲がっている為、ストレートな表現は苦手な模様である。


「これは本腰をいれてエリザに落としてもらう必要があるなあ……周りもそろそろ動き出すだろうし」


 妹姫に聞こえないように小さく呟く兄であった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「セイジ、お客さんだぞ」

「うす」


 誰だろな? まさかこんなとこまで嗅ぎ付けて来てないだろな?

 オレは今、バルドック兄貴とエステラ姉さんの宿に身を隠している。


「勇者様に面会ですか? それならばまず私が行ってビシッと言ってきましょう」


 誰の所為でこうなってると思ってんだお前。

 オレは半眼でライラックを睨みつける。


「あっ、なんかその目、ゾクゾクしますぅ!」


 ダメだコイツ。早くなんとかしないと。

 ダンジョン攻略が終わり若旦那の館に戻ると、ものすごい数の人が押し寄せて来ていた。

 どうやら道中でライラックがオレが勇者だと触れ回っていた模様。


 普通ならそんなよた話、だれも聞きゃあしないのだが、ライラックは一応未踏ダンジョンクリアの英雄の1人。

 英雄のキンピカの身分証をぶら下げて、あちこち言いふらしまわるものだから。

 それでも勇者はねえだろと下々の人々は一蹴するのだが、王侯貴族ともなれば話は別な訳で。


 噂がある、というだけでも結構なステータスになるらしいです。はい。


 そういう訳で館に戻らずエステラ姉さんの宿に直行いたしました。


「あっ、いたっ、あががが……もっと!」


 ほんと、どうすりゃいいんだよコイツ!

 お仕置きがお仕置きになりゃしねえ。呪い、解けてないんじゃないか?

 オレはとりあえず、弟のドスナラにライラックを預けて客人の元へ向かう。


「セイジ様、ぼっちゃまをお止め下さい!」


 そこに居たのは、あのぽっちゃり王子の従者で、想い人。カリュリーンさんであった。

 よくよく話を聞くと、オレの迷宮攻略に触発された王子様が、自分も未踏ダンジョンに行くと言い出したらしい。

 そこで国の勇士を募って準備が整い次第、ダンジョンに向かうとか。


 ちなみにカリュリーンさんは危険、ということでお留守番なそうな。


「そんな、危険なとこ?」

「はい……王都にある唯一の未踏ダンジョンなのですが……」


 なんでもSSSという難易度で、過去にも王族が何度も挑戦しているとな。

 その度に全滅の憂き目にあっているらしい。

 世界でも有数の高難易度で、数多くの英雄の墓場でもあるとか。


 ちなみにオレがこないだ攻略したダンジョン『死者の辿り着く終焉』一応SSS級でございます。

 まあ、蚊に混じったヴァンパイアとかいたら勝てないよな。ヴァンパイアハンターがいるぜ。

 あとで聞いたんだがな……あんの姫様、オレをコロスキカ? まあ、確かに相性は良かった訳だが。


 しかし、止めるといっても、どうやって止めりゃいいんだ?


「姫様に相談したところ竜籠を用意して頂きました」


 あっ、ヤナ予感。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「残念ねぇシュマ、この竜籠はもういっぱいなの」

「むぐぐぐ、姫様、卑怯でございますっ!」


 姫様が用意した竜籠、3人乗りの超小型、スピード重視の直行便であった。

 カリュリーンさんがオレ宛の書物を王宮に送ったようで、姫様は転送せずにどうどうとその場で開封。

 内容を知った姫様は、すぐに竜籠をカリュリーンさんの元へ送りこちらに来るように指示。

 で、今に至るという訳なのだ。


 この姫様に掛かればプライバシーもへったくれもねえぜ。


「良かったですねセイジ。暫くここを空けておけばその内、騒動も収まりますわ」


 怪しげな笑顔で微笑みかけてくる姫様。

 今度はなに企んでるっすか?

 それにどうして姫様までついて来られるので?


「あらあら、わたくしが行かなければ、ただの平民が王宮になど入れる訳ありませんでしょ?」


 カリュリーンさんが居るじゃ?


「すいません……私は只の侍女なので、そこまでの権限は……」


 そうッスか。


「感謝しなさいよセイジ。そうね……この報酬はあなたの『KA・RA・DA』で払ってもらいましょうか?」


 その『KA・RA・DA』とはどういったものでしょうか……

 それにオレは別に行かなくても……あっ、行きます。大丈夫ッス、見事止めてみせます!

 ふう、オレも美女の涙には弱いなあ……


「いざとなったら泣き落とし……というのも考慮の余地ありですか」


 ……聞こえてますよ姫様。

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