第62話

 と、ライラックの件はとりあえず後回しにすることにし、現状の状況をシュマお嬢様達と確認する。


「ここから先は未踏エリアとなっています」

「何が出てくるか分からねえ、心して掛かれ。特にそっちの小さいの」

「ちっさ言うなや! ちょ、ちょっとエルフの血の所為で成長が遅いだけなんだから!」


 姫様に聞いたところ、そういう伝説は残ってはいる、との話だが……多くの話では、エルフは成人するまでは人と同じ成長速度らしいな。

 成人してからは数百年ほど姿が変わらないんだと。

 ということはだ。どちらにしろ18歳という大人の年齢にもなって小学生並みの背丈のライラックは……まあ、多くは語りまい。


「ここからは慎重を期して歩みは今までの半分とする」

「うす」


 しかし、聖水出せるようになったんだからもっとこう、なんかいい使い道ないかな?


「それにしても、こんな死者のダンジョンにも例の奴は居ますわねぇ。セイジ、アレお願いしますわ」

「うすっ」


 オレはハナビにモデルチェンジして蚊取り線香に火をつける。

 こんな死者しか居ない所でも奴らは生きている。虫の生命力は驚くばかりである。

 つ~かこいつら、何、吸って生きてんだろ? アンデットモンスターには血が流れていないってのにな。


 と、ポトッと落ちた蚊の一匹から煙が立ち上る。


「ヴァンパイアだ!」


『エンチャント・神聖!』


 ライラックが蚊からヴァンパイアに変わったモンスターを切り伏せる。

 うぉっ、この蚊、ヴァンパイアが混じってんの蚊、こええ。


「これはとんでもない落とし穴だな……なぜ誰もが、この先に進めなかったか分かった気がする」

「帰ったらギルドに報告しませんとね」


 しかしこれは参ったぞ。

 モンスター避けの呪布はあくまでモンスターから見えなくするだけだ。

 蚊は確か、熱とか呼吸? だっけ、そこらへんを察知して向かって来るんだよな。

 蚊を先鋒としてヴァンパイアが紛れ込み、眠っている人間をサクットナ。こりゃきついわ~。


 とりあえず、蚊取り線香を取り囲むように並べてみたが、ヴァンパイが早期発見できるだけでそこからは戦闘となる。

 さすがに蚊取り線香の煙だけでヴァンパイアの息の根を止める事は……まてよ?


『装填・聖水煙!』


 蚊取り線香の煙が青白いものへと変貌する。

 蚊取り線香の弾を聖水に変更してみたのだ。

 ポトッと落ちた蚊から煙が立ち上る。しかし、ヴァンパイアになることなく溶けて魔石となった。

 こりゃええもの見つけましたワ~。よしっ、設置できるだけ設置して寝よ~ぜ。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「まあ、なんというか……いいのだろうか?」


 ラルズさんが呆れた顔で財宝を見つめてござる。


 一眠りしてダンジョン探索を再開したところ、辺りにモンスターがいやしない。

 これはもしかしてと思い、聖水をセットした蚊取り線香を大量に設置し、シュマお嬢様の風の魔法で循環させる。

 面白いように弱っていくアンデットさん達。


 あっというまにボスの間に。

 そこから3日3晩かけて少しずつ聖水煙をボスの間に流し込む。

 4日目の朝、ボスらしき魔石を残して昇天しておりましたとさ。


 すげ~ぜ蚊取り線香! まさにチートだ! 蚊取り線香のくせしてな……


『……ダンジョン攻略おめでとうございます! あなたに以下のアイテムを授けます。選択してください』


 最初の……は何だよ? 分からないこともないが。

 オレの頭上の数字のウインドウが消え以下の内容が表示される。


 セレクトA:魔法剣ブレスブリンガー


 能力開放:呪い


 選択肢がねえや。まあ先に貰ってるしな。

 あと、やはり呪いが掛かっていたかぁ。


「ブレスブリンガー、それが私の相棒の名ねっ! で、どういう意味なんですか勇者様。えっ、祝福を運ぶ者?」


 私にぴったりですよねっ! 私は勇者様に祝福を運びます! って言ってるが、祝福どころかトラブルを運んでくるような気がする。

 ん、まだなんか光ってるな。


『ハナビがレベルアップいたしました。以下の能力が追加されます』


 弾選択:手榴弾


「………………」


 うん。これはすごい火力アップだ! これで範囲攻撃までゲットだゼ!

 だがな女神さん、オレはこういうのを求めてハナビを選択した訳じゃねぇえええ!

 あんの女神、火がでりゃなんでも花火だと思ってんじゃねえだろな?


 違うんだよ女神さん! 花火は芸術なんだよ! 夜空を彩る大輪の花。そう、花火は華なんだよっ!


 火がでりゃなんでも一緒じゃ決してねえ。ん、なんかパネルが開いたな?


『以下のアイテムの名称を変更いたします』


 弾選択:手榴弾 → 弾選択:花火手榴弾


「………………」


 オレは手榴弾のピンを抜いて遠くへ放り投げる。


 ―――ピカッ! ドォーーン!


「うわっ、ちちち」


 その手榴弾は打ち上げ花火がごとく、大きな音と閃光を撒き散らし火花が辺りにとびちる。

 結構、離れてたのにこっちまで火花が飛んできた。

 打ち上げ花火を手榴弾にしたかぁ……これ手榴弾つ~より、スタングレネードだよな? いや殺傷力があるから、スタン付き手榴弾か?


「なにやってんだセイジ。何かいたのか?」


 慌ててラルズさんがそう言ってくる。

 いや、新しい武器、貰ったんで試していただけっす。

 あっ、拳骨っすか? うすっ、すんません!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る