第59話 カウントダウン開始!

 なんてことがあったんですよぉ。

 オレは帰ってシュマお嬢様に相談する。

 ラルズさんは額に手を当てて、


「セイジが本物の勇者なのは分かった。で、その数字、どんくらいで0になるんだ」


 そう聞いてくる。

 どんくらいですかねぇ、今まで減ったのが……あ~、最初いくらだったけ。


「これならざっと計算すれば……3ヶ月ってとこですね」


 シュマお嬢様が、オレの頭の上の数字と時計を照らし合わせて大体の日数を割り出す。

 3ヶ月かぁ。アイラ姉さん達にまた手伝ってもらえばなんとか?


「とりあえず俺達には二つの選択肢がある訳だが」


 一つは未踏ダンジョンの攻略を目指す。

 無事に攻略できれば何事もなく終了する。無事に攻略できればな。


 一つはこのまま放置。

 少々世界が荒れるかもしれないが、触らぬ神に祟りなしである。


「放置は不味いだろう。バレなかったとしても、残ったセイジの神器を狙って戦争が始まるぞ」


 そりゃおっかねえ……


「問題は、どこの未踏ダンジョンなら手っ取り早いかというとこだな」

「癪ですけど、姫様ならいい案があるかもしれません」

「あんの姫様に借りなんて作ってもいいのかよ?」

「セイジの命には代えられませんわ」


 そうか、あの腹黒姫様なら……出来ればそれは避けたいですね。


「とりあえず領地に戻るぞ」

「うすっ」

「そっちの二人にも、ついてきてもらうぞ」


 ラルズさんが、なんか平伏しているライラックとドスナラさんにそう言う。


「ととと、とんでもない、私達に何が出来るというのでしょうかっ!」

「その剣、見たところライラックに合わせて作られている。たぶんそれは、お前が使うべきものなのだろう」


 まあ、そういうつもりで女神さんに頼んだからなあ。

 ライラックは「そそそ、そんな大層なもの受け取れません」とか言ってるが、ラルズさんはなんとしてでも逃がさない素振りでござる。


「ゆゆゆ、勇者様とはいざ知らず、とんでもない口を利いてしまいました」


 ガタガタと震えているライラックさん。こないだまでの傲岸不遜な態度はどこにいったのか。なんかちょっと面白いな。

 しかしあれだな、若旦那達は勇者ってバレても大して変わらなかったのに、この人はどうしてここまで豹変するのだろうか?

 あっでも、弟さんはつきあってるみたいな感じだな。


「姉さんはほら、先祖がエルフとか言ってるでしょ? その所為で勇者伝説とかに憧れててさ」


 こっそり弟さんに聞いたところ、このちび姉は過去の伝記物とかが大好きらしく、エルフとか勇者とか心躍らす存在に随分入れ込んでいるとのこと。

 とはいえ、このままでは話が進まない、オレはシュマお嬢様の方へ目を向ける。

 お嬢様は仕方ないわね~って感じで、平伏しているライラックさんの隣に座り込む。


「顔をあげなさい、古きエルフの血を引く者よ」


 あっ、お嬢様がなんか変なこと言い出した。

 そういやお嬢様も、伝記物、大好きっ子だったか。

 あなたは勇者に選ばれし存在なんですよ、とか耳元で囁いている。

 ライラックさんの顔がどんどん真っ赤に膨れ上がって……あっ、鼻血吹いた。

 お嬢様はライラックさんの鼻に詰め物をしながら、


「さあ、私達と共に立ち上がるのです。選ばれし者よ!」


 そう言って手を差し伸べる。

 さすがは辺境といえども領主の娘、人心掌握術はお手の物ですね。

 ライラックさん、恍惚の表情でシュマお嬢様を見上げてござる。


「あ、あの~、あんまり姉さんを焚き付けない方が……」

「はっ、このライラック、勇者様の為に一命を掛けてお仕えする所存でございますっ!」

「よく言いました。あなたは我が人類の誇りです」


 もう、そこらへんでやめましょうや。

 ほら、弟さんがドン引きしてまっせ。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「とんでもないことになってますわね……」


 姫様が、ラルズさんがやったのと同じように額に手を当てている。


「世界中の神器が消え失せる……ふうむ……セイジさえ手元に置いとけばコレは意外と? いや、さすがに……」


 また黒い思考でお考えのようだ。

 今回は普通にダンジョン攻略を目指す事に決めましたよ?


「3ヶ月ですか……そうですね、セイジとの相性を考えれば……こことかいいかもしれません」


 姫様が地図の一点を指差す。


「死者の辿り着く終焉と言われる、アンデッドモンスターが大量にいる場所です」


 なるほど、オレのポーション弾の出番という訳か。


「後はパーティメンバーですが……」


 ここに来る前にバルドック兄貴達のとこへ寄ったのだが……


「いや~、そのな~、ちょっと油断したらな~」


 兄貴のお腹がたぷたぷに……


「なんていうか……あぶく銭は持ったらあかんよな~」


 そう言って豪快に笑う兄貴。

 あんたはどこの親分かよってぐらい恰幅のいい姿になっておられた。


「あとな……」


 兄貴が後ろを指差す、そこには……お腹の大きな姉さんが。

 どうやら二人目が出来たご様子。

 仕方ない、アイラ姉さんでも、


「あ~なんだ、アイラもおめでたでな~」


 えっ、出来ちゃったの!?

 誰の子!? って聞くまでもないか。


「ヒュッケルの奴も、アイラの事は娘としか思ってないとか言っておきながらなぁ」

「あの子もやるわよね。祝勝会でがぶがぶ飲ませて連れ込んだらしいわよ」


 アイラ姉さん……

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