第56話

「なあ、兄ちゃん、なんかまたコレ光ってんだけど」


 おっと、そういや忘れてたな。

 今回のスライムダンジョン、クリア後のレベルアップだが、いつもと違った選択肢が現れた。

 ダンジョン攻略おめでとうございますの後に、


『以下のメニューを選択してください』


 セレクトA:新たな神器を取得する


 セレクトB:現状の神器を強化する


 という内容が。

 これあれだよな、武器を増やすか強化するかを選択しろってことだよな。

 それぞれの内容を見てみたいのだが……あの女神の事だから、きっと戻るボタンなんて無いんだろうなあ。


 前回、針金とヘアピンだったので、今回も碌な神器が無いと予想され。

 なので、セレクトBの現状の神器を強化するを選択する。


『強化する武器を選択してください』


 セレクトA:ハンドガン


 セレクトB:錆びた短剣


 セレクトC:ヘアピン


 ほわっつ!?

 えっ、これハンドガン強化できるの!?

 どうした女神、最近、神懸かってるじゃないか!

 初級ダンジョン攻略するだけでハンドガン強化できるなんて!


 前回はフルオートだから今回は何かな? 散弾とか爆裂弾とかこないかな? ハンドガンでは無理か?

 とはいえ、フォルテの短剣もいつまでも錆びたまんまにしとくのも忍びない。

 なので今回は、フォルテの短剣をレベルアップさせることにした。


 ちなみに、やはり戻るボタンはありませんでした。


『錆びた短剣がレベルアップいたしました。凄く錆びた短剣にグレード変更いたします』


 えっ!?


 ……これ悪くなってないか?


「あんちゃ~ん……」


 フォルテが泣きそうな目で見てくる。

 すまぬ。

 いや、なんか続きがあるぞ。


『凄く錆びた短剣に以下の能力が追加されます』


 状態異常追加:腐食


 機能追加:装備リセット


 なんだこりゃ?

 状態異常の方はあれだよな、切った対象に一定時間ダメージを与え続けることができる。

 試しにそこらに生えてる木の枝の先を切ってみる。

 そこから徐々に木が腐っていき、1分ぐらいで止まる。

 なるほど、1分間、腐食の状態異常を追加できるのか? 危険だなコレ。フォルテに持たせといていいものだろうか?


「うぉーー! すげ~ぜ! 触れるだけでダメージ与えられるなんて、普通に切るよりモノスゲーつかえんぜ!」


 フォルテは随分喜んでいるが。

 まあ確かに、当てるだけで普通に切るよりダメージ出てるな。時間はかかるが。

 フォルテのように力がない女性には使える武器かもしれない。


 あとは装備リセットだが……


『装備リセット!』


 一瞬短剣が消え、また現れる。

 これは……!?


「ちょっ、兄ちゃんなに投げてんだよ!」


 オレはフォルテに装備リセットと唱えるように言う。


「そうびりせっと? なんだそりゃ、おわっ! 短剣が俺の手に!?」


 フォルテの手元に短剣が現れた。

 どうやら、オレの銃の離れれば手元に戻る。を、いつでも再現できる模様。

 投げても手元に戻ってくるという仕様だ。このダガー、かなり優秀じゃね?


 ただ問題は腐食の方だな。

 ナイフの扱いには慎重にならざるを得ない。

 下手に自分切って指が腐食したとかなったら目も当てれやしない。

 いや、自分には利かないとか? 試してみる勇気はないが。


「フォルテは暫く、ナイフ扱いの訓練だな」


 ラルズさんがそれを見てこう言ってくる。


「じゃあ私は……料理の練習でもしようかな?」


 フォルテが迷宮に行けないとなると暫くはダンジョン探索がお休みになる訳で。

 じゃあオレも久しぶりにマグロ鳥狩りに出かけるかな。


「ちょっと待ってよ! いきなり休憩って言われても私達にも都合ってものがあるのよ! これだから貴族上がりは……」


 どうやらご兄弟、路銀が心もとない模様。

 そりゃそうか。駆け出しの冒険者は普通は金欠なものだ。


「セイジ、付き合ってやれ」

「えっ、いらないわよこんな役立たず」


 グサッとくるお言葉……先程のスライムダンジョンの所為で言い返すことすらできやしない。


「あっ、まあ……役立たずは言いすぎたよ。うん、荷物持ちぐらいなら大丈夫よね!」


 さすがに悪いと思ったのか、落ち込んだオレにそう言って励ましてくる。


「セイジ、名誉挽回だ行って来い。初級ダンジョンぐらい、お前ならどこでも大丈夫だろ。スライムはそいつらにやってもらえ」


 うすっ、オレ頑張るッス!


「仕方ないわね~、同じパーティなんだし、あんたも強くなってもらわなくっちゃね。私がしごいてやんよ!」


 なぜかオレが、ライラックさんに指導を受ける立場に。

 ラルズさんはそれを楽しげに眺めてきている。あの人、絶対楽しんでやがるな。


「ほらここならどう? 実は私達、この中級ダンジョンクリア済みなのよね~」


 そんな自慢げにしているちび姉を尻目に、弟さんがこっそり耳打ちしてくる。

 今まで教えられるばっかりだったから、初めて教える立場になってちょっと張り切っているそうな。

 根は悪い姉じゃないので少々は大目に見て欲しいと。

 よくできた弟さんじゃないですか。


 でもですね、いきなり中級ダンジョンはどうかと思うのですが。

 ふむふむ、初階だけなら初級ダンジョンと変わらない? ちょっと姉に見栄を張らせて欲しい?

 まあ、初階だけなら問題もないかな?


「そもそも、そんなもの着てるのがダメなのよ。ほんと貴族の嬢ちゃんは過保護なんだから」


 金のアルとこはまったくとか呟きながらモンスター避けの服を脱がしにかかる。

 やめっ、あかんっ、これ脱いだら偉い事に。


「ほら、ドスナラも手伝って」


 ちょっ、弟さんまで、ほんとあかんのですっ、らめぇええ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る