第55話 だから奴は天敵なんスよっ
「ど、どうですか? フォルテに教わって作ってみたんですけど」
オレの目の前には、ぐちゃぐちゃになった猫まんまが。
む、まあ、味はそこそこじゃないかな。
「良かったぁ、料理なんて作るの初めてでしたから」
なんでまた突然、料理?
お嬢様は髪につけてある猫のアクセサリのヘアピンに手をやり、フルフルと真っ赤な顔でかぶりを振る。
こないだの最低級ダンジョンの女神様からの報酬だが、出てきた選択肢が針金:かぎ開け値上昇と、ヘアピン:魔力回復上昇極小。まあ、最低級だしね。
なので今回は、お嬢様向きのヘアピンを選んでプレゼントしたのだが。
飛び上がって喜ぶお嬢様。ヘアピン一つで大層な喜びようである。そういや、お嬢様にプレゼントしたのってこれが初めてだったか。
朝からずっとヘアピンを手にしてニヤニヤ顔で、夕食時に突然、料理をすると言い出した。
「フォルテはほんとすごいですわね。料理に家事になんでもできます」
「そりゃ~、あねさんにしごかれたからなあ……つ~か、お嬢様が料理や家事をする必要がないんじゃね?」
「えっとですね、ほら、やっぱり、気になる人には、ね?」
なんでもしてあげたいですと、ポツリとオレの方を見ながらそう言ってくる。
ほんと可愛らしいお嬢様である。
「ちょっとそこの保護者の人、もしかしてこいつらデキてんの? やだよ、こんな雰囲気でダンジョンなんて」
新たにパーティに加わった、自称エルフの血が混じっているお姉さんであるライラックが、そうラルズさんに問いかける。
早速、パーティ解散の危機でござる。
「あの、もしかしてこのパーティって、今、流行の貴族とその従者の……」
その弟さんであるドスナラがそう呟く。
今、流行ですってよ若旦那。
どうやらこんな遠方にも若旦那の英雄譚が流れているらしく、
『曰く、身分違いの恋を成就する為に戦った』
という設定になっているらしい。
で、それを真似てお手つきの従者さんを連れてダンジョン行く貴族さんが急増したようで。
かの大国の王子まで、それを真似てダンジョン攻略を目指しているとか。
……誰だろなぁ、その王子様。
「あ~、まあ、似たような感じでも、あるような……ないような?」
ラルズさんが言葉を濁す。
「はぁ、こいつは苦労しそうだね。貴族の道楽に付き合わされるとは……」
「まあまあ、ほら、僕達だって初心者なんだし」
憮然とする姉を弟が宥めている。
弟さんがこっそり話してくれたところでは、二人ともなかなかパーティに入れてもらえなかったらしい。
入ってもその日中に解散とかざらだったとか。
自分はタンクだけど少々臆病で前に出られない。
姉であるライラックは果敢に攻めるんだけど魔法剣士は育たないと役に立たないとか。
この世界の魔法剣士とは、剣に魔法をエンチャントして戦うそうな。
上級者になれば、炎を纏った剣や切断面を凍結させたり出来るらしい。
ただまあ、それにはミスリル製の専用の剣が必要になったり、かなりの熟練が必要になるとか。
駆け出しのライラックでは、少々剣があったかくなったかな? ぐらいとか。
ほぼ普通の剣士と変わらない。しかも見た目は小学生、超非力である。
「ま、仕方がないさね。私が頑張るしかないか。お姉ちゃんに任しときなさい!」
それでも強気のおこちゃまでござる。
「心配ない、オレ、強い」
「はぁ? ああ、はいはい、強いでちゅね~」
オノレ、今に見てろよ。ダンジョン探索が始まったら目にモノみせてやるゼ!
◇◆◇◆◇◆◇◆
と、張り切って向かった初級ダンジョン。
「ちょっと、その魔法やめてよっ! 動きが制限されるじゃない!」
「……うす」
オレが撃ち込んだ焼夷弾に文句を言ってくるライラック嬢。
あれだな、焼夷弾、前衛が居ると危険だな。
ラルズさんほどベテランなら兎も角、味方でも万が一踏んだら大惨事だ。
だがしかし現状、これしかやる事がないのですが……
えっ、普通に銃をぶっぱなせだって? いやですねぇ、突き抜けるんですよぉ。
なんせ今回、向かったダンジョン、初級も初級、スライムしか出ないダンジョン。
なんだよこの罰ゲーム! なんでこんなとこ向かうのよ?
「うちのパーティはセイジの火力に頼りすぎだからな。こういった場面も今後ないとも限らんぞ」
そういうことらしい。
それに、魔法剣士の練習の場にはもってこいな場所とか。
火属性を付与した剣でアイススライムを切れば一撃。属性を変えながら華麗な剣捌きでスライムを両断していくライラック。
「今回はライラックの実力を見ることに専念だな」
「……うす」
ほぼライラックさんの無双で終わるダンジョン。
弟さんも盾でつぶしたり大活躍だ。
フォルテですら、はぐれスライムを始末している。
役に立たないのはオレばかり……
帰ったら案の定、
「まあ、最初は誰でもあんなもんよ! 確かあんた魔法使いだっけ? なんなら安い杖買ってあげようか?」
ライラックさんに慰められる。
オレだって……オレだってぇええ、相手がスライムでさえなければっ!
泣きながらその場を走り去るオレであった。
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