第54話

「セイジはあれだな、最近、丁寧さに欠けるというかなんというか、大半が壁、撃ってたぞ」

「うす」


 オレ達は今、若旦那の領地から遠く離れたリュト王国というとこに来ている。

 この国は一つの大きな街が国となっている都市国家で、周辺に多数のダンジョンがある。

 その大半は初級ダンジョンであり、ここは冒険者の始まりの地と呼ばれるほど駆け出しのメッカとなっている。


 そして今回、オレとシュマお嬢様、フォルテの3人で、最低級ダンジョンをクリアし、その総評をラルズさんに頂いているところだ。


「以前よりかえってモンスターを倒す時間が増しているぞ」


 そうなのだ、フルオートだと命中率が、がた下がりだった。

 的がでかい敵ならまだいいが、ウルフやゴブリンなどの比較的、小さなモンスターには半数以上が外れる始末。

 以前は頭を狙って一発で決めていたのが、ぶっ放しながら動かすと当たらないのなんのって。


 3点バーストですら外す始末。

 これはまたしても修練が必要であります。何事も練習あるのみっスね。

 そういやマシンガンって、そもそも殺傷力が低く、動きを封じることが中心なんだったか?


「モンスターも避けやすそうでしたよね」


 シュマお嬢様がそう言ってくる。

 なるほど、撃ちっぱで移動させると射線がばれるという欠点もあるのか。

 世の中、思うようにはいかないものでござる。


「フォルテは前に出すぎだ、お前はパーティの要でもある。常に安全な位置を探らなければならない」


 フォルテは主に荷物持ち、マッピング、罠探知や敵の索敵などを行っている。一般的にスカウトと呼ばれる立場だ。

 で、ラルズさんが言うには、スカウトは一件、軽視されそうだがパーティで一番重要な位置にある存在なんだと。

 ダンジョン探索には多数の荷物が必要だ。それを管理できるメンバーはパーティの生命線を握っているといってもいい。


 マップだって作成者の癖がでる。的確に読み取るのは作成者が一番である。

 さらに戦闘中に辺りを警戒できる。

 中にはスカウトなんか誰でも出来る職業、使い捨て、と考えるパーティもあるそうだが、そういった者達は大成しやしないと。

 スカウト無しでダンジョンを探索するという事、それは山師の案内無しで山に潜る事と同じである。


「かつてどの英雄のパーティでも、その時代の最高クラスのスカウトが存在していた」


 そういえばアルーシャさんも、ダンジョンがある町についた当初は引き抜きのお話がいっぱいきていたっけ。

 いつも位置取りを気にしていて、アルーシャさんに危険な場面があったのは最後のあのドラゴンの時だけだったな。


「高難度のダンジョンではスカウトがやられた時点でパーティの全滅が確定する。それほど重要だということを心に刻んでおけ」


 フォルテは神妙な顔をして頷いている。


「次にシュマお嬢様だが、まあ、今のままでも問題はないだろう」


 それを聞いて鼻の穴を膨らませて胸を張るお嬢様。


「一つ注文があるとしたら、いい加減メンバーを捜せってとこだな」


 それを聞いてシュンとうな垂れるお嬢様。

 やはり、なかなかメンバーが集まらない。

 15歳で成人とはいえ見た目は子供。しかもうち二人は女の子。リーダーが女性ってのでさらにハードルが上がる。


 ここは初心者が集まる街。オレ達のような年齢が低い人達もたくさんいる。

 しかしながら、そういった人達は大抵、仲良しグループが出来上がっている。

 バラけている場合でも、パーティ内に中堅冒険者が入り、訓練中心なのでオレ達のようにガチ勢はなかなか見当たらない。


「ここは初心者が集まる場所だ、まずは訓練生を受け入れてはどうか」


 とは言うが、むしろオレ達が訓練生だと思われている始末。

 なんでみんなオレを見て言うんだろうな。もしかしてこのパーティで一番年下に見られて……いやいやいや、そんなはずはない! ……といいなぁ。


「セイジはひょろひょろだし、魔法使いにしては杖すら持ってないからな。それこそ、駆け出し中の駆け出しに見られてるんだろ」


 そんなぁ。オレ、とりあず飾りでもいいから杖持とうかなぁ。


「そんなお前らに朗報だ。ピッタリの奴を見つけてきたぞ」


 そんなある日、ギルドの兄ちゃんがそう言ってくる。

 その笑顔に果てしなく嫌な予感を隠し得ないのですが。

 そうして引き合わされた人物、がっしりとした筋肉マン、大きな盾、精悍な顔つき。


 確かにオレ達にとってピッタシかも知れない! こんなタンクさんが欲しかった!

 ……その前には小学生くらいの女の子が居るのが不安ではあるが。


「魔法剣士の姉に、タンクの弟だ。どうだ、お前らにおあつらえ向きだろ?」


 そう言って笑うギルドの兄ちゃん。

 えっ、姉ぇ? 弟ぉ? 逆じゃないの?


「私はこう見えても18歳よ! 私にはね……伝説のエルフの血が流れているのよっ!」


 死んだじっちゃんがそう言ってたとか言ってらっしゃる。

 弟さんが、そんな姉さんを困ったような目で見つめてらっしゃる。

 ねえ、姉さん、エルフの血が流れていて成長が遅いなら、その弟さんも成長が遅くなければならない訳でしてね……


 つ~かあれじゃね? 弟さんに成長ホルモン奪われてんじゃね?

 弟さんは15歳、シュマお嬢様やフォルテと同い年だ。とてもそうは思えない。二十歳は超えてるよなぁ。


「き、聞いたわよ! あんただって18歳、きっと私と同じでエルフの血が流れているのよっ!」


 二人を交互に見回して呆れた表情をしているオレに向かって、そう言ってくる。

 ちょっとマテや。オレはさすがに小学生ほどは……ちょっとシュマお嬢様、目、逸らさないで下さいよぉ。

 な、ピッタリだろ、ってギルドのあんちゃんがオレの肩を叩いてくる。どういう意味でピッタリなんだよ!

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