第53話 フォルテ、防具ゲットだぜ
「これは一体、どういうことですかっ!」
一枚の紙を机に叩きつける弟さん。
なになに……うん、読めないな。えっ、当主任命の書類?
その書類には、ハルシアお嬢様が弟君に当主の権限を譲るといった内容が書かれているようだ。
ハルシアお嬢様……若旦那のとこに骨を埋める覚悟でもなされたのでしょうか?
「どういったことも何も、書いてある通りですわ」
「なぜです!? ファイナース家を見事立ち直らせたのはお姉様のおかげ、なのになぜ?」
「私の役目は終わったのです」
弟さんはそれを聞いて目を見開く。
「これから……これからじゃないですか! 家を再興し、これからファイナース家の新たな歴史が始まるのではないのですか!?」
「その役目は……私ではない、あなたが行うのです」
ハルシアお嬢様はなぜなら、と続ける。
自分が行ってきた事は、お世辞にもお綺麗な事とは言えない。
これまではそれでも良かったかもしれない。だが、これからは家格にあった行動が求められる。
今までのように、只、敵を作って叩き潰すだけではやっていけない。
自分はもうそれしか出来ない、だがおまえは違う、おまえならばこの先、十分にやっていけるだろうと。
「そんな……僕には無理です!」
「元々はあなたが家を継ぐ予定だったんです。本来の姿に戻っただけなのですよ」
それでも弟さんは納得していないようで、色々と理由をつけてはハルシアお嬢様に家に戻るように説得している。
「いいですか、戦乱の世を治めるのは暴君でなけばならない。だが、平成の世は暴君には治められない」
だんだん話が難しくなっております。
「ファイナース家の闇の部分は暴君である私が全て背負って消える。あとはお前が、平成の世を治める賢人となってほしい」
あっ、弟さんが泣きそうだ。
と思ったら、ポタポタと涙を流し始める。
「おねえさまぁ……」
「うっ、ダメだぞ。な、なんでも泣けば、と、とおると思ったら大間違いだぞ」
ハルシアお嬢様も苦労されていたようですなあ……
それを見てタジタジになるハルシアお嬢様。
「シャキッとしろ! 背筋を伸ばせ!」
「うっ、ぐすっ、はい!」
「そうだ、強くなったな……後は頼んだぞ……」
そう言って部屋を出て行くハルシアお嬢様。
ちょっとお嬢様、なんかいい話で終わったように言っていますが、こちらの涙を流されてるお方は、どうすればよろしいのでしょうか?
「セイジ、僕とアルーシャはハルシアを追う、こっちは頼めるか」
「うすっ、えっ!?」
若旦那とアルーシャさんはハルシアお嬢様を追って走って行った。
あのヤロウ、押し付けやがったな!
ハルシアお嬢様を雇っているのは若旦那なのに。だったら若旦那が、ビシッとこの人に言えばすんだんじゃね?
弟さんは椅子に座って未だえぐえぐ泣いてござる。
オレは隣のシュマお嬢様を見やる。
ヤレヤレって感じで、ほっとけばみたいな目をしている。
オレは逆隣のフォルテを見やる。
興味なさそうにバナナを食ってござる。
そんなフォルテとオレの目があう。えっ、バナナが要る? いくつ食うんだよお前。
オレはフォルテにバナナを手渡す。
フォルテはそのバナナの皮を剥き、口に持っていこうとした手がふと止まる。
と、泣いているハルシアさんの弟さんのとこへ行き、
「なんだか知らねえが元気出せよ。ほら、これでも食うか?」
とバナナを突き出す。
弟さんはその突き出されたバナナを口に頬張る。
甘い、おいしいと呟いた後、突然、号泣しながらフォルテを抱きしめた。
「うおっ! 何しやがんだこいつ、離しやがれ! このっ、ちょっ、意外と力あるな」
フォルテが必死になって両手で顔を押しのけ、蹴りまわっている。
しかし弟さん、それでも離さない。
「兄ちゃん、助けてくれ!」
オレはそれをじっと見つめる。
うん、ここはもうフォルテに任すとしよう。
オレは親指を一つ立てる。
「がんばれ」
「あんちゃーーん!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ひどいぜあんちゃん」
まあ、そういうな。なんかお詫びで今度、服、贈ってくれるそうだぞ。
フォルテの服、涙と鼻水で見るも無残な姿に。
で、服が届いた訳だが、
「うぉおお! なんかすげーっ」
真っ赤なゴシックドレス。
「兄ちゃん、俺、コレ着てダンジョン行くぜ!」
フォルテは随分気にいったご様子。
しかし、ドレスでダンジョンは無理だと思うぞ。
「そうでもないようだよ?」
若旦那がドレスに付属していた便箋を読んでいる。
ん、なんかハルシアお嬢様が真っ赤な顔してプルプル震えてござる。
「なんでも魔法が掛かっていて、そこいらのフルプレートより防御力があるらしい。……昔ハルシアが使っていたとか」
全員の目がハルシアお嬢様に向く。
えっ、このお嬢様、これ着てたの? えっ、マジエ!?
「なに? なによ、言いたい事があるなら言えば」
いえいえ、何もありませんよぉ?
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