第51話 対ケルベロス戦
「カリュリーン……どうやってここへ……」
「ぼっちゃま、今すぐお助けします!」
そう言いながら、一陣の風がごとくモンスター達の間を駆け抜ける。
『装填・焼夷弾!』
オレは焼夷弾で動き出したモンスターを足止めする。
「良かった……本当に良かった……生きていると信じていました」
その女性は王子様の所まで行くと感無量で抱きつく。
「カリュリーン、こんなに傷を負って……すぐ癒すじょ!」
「要りません! もう、この傷では……ぼっちゃま、私が血路を開きます! どうか、お逃げください!」
「そんなっ、イヤだじょ! カリュリーンだけじょ! ボクちんの本当の配下はカリュリーン1人だけじょ!」
その女性は王子様の護衛をしていたあの御付の侍女さんだった。
カリュリーンさんは優しく王子様に微笑みかけ、
「嬉しいお言葉ありがとうございます」
そう一言、告げるとモンスターに向かって駆け出す。
「はぁ、わたくしの護衛もあれぐらい……まあ、無理でしょうか」
『装填・劣化ウラン弾!』
姫様、今はそんなこと言ってる場合じゃないッス!
「分かっていますわ、チョコバー貰いますね!」『サンダーレイン! フルバースト!』
洞窟一杯に雷が駆け巡る。バリバリとチョコバーを食いながら持続して雷を振らせ続ける。
「カリュリーン、カリュリーンがっ!」
「まだ助かる、いや、助ける! 王子、男、見せろっ!」
王子がオレの方を向く。オレはぐっと親指を立てて答えてやる。
「その言葉、信じるジョ!」『ホーリーレイン! フルバースト!』
王子様から無数のレーザーのような物が放たれる。それらはカリュリーンさんを突き抜けて、モンスターのみを貫いている。
敵味方を識別するレーザー光線か!
しかし、それを発動するにはかなりの魔力が必要だったらしく、すぐにフラッと倒れそうになる。
オレは片手で銃を乱射しながら、もう片方の手でバナナを王子の口につっこむ。
チョコバーは回復量が少ないが腹に結構入る。
対してバナナは回復量が多いが腹にあまり入らない。だが、この王子なら大丈夫だろ。
『ホーリーレイン! デュエルバースト!』
先ほどの倍以上の光線が洞窟を貫いていく。どうやら壁すら通り越してその先のモンスターまでダメージが出ている模様。
王子は口いっぱいバナナを詰めてモグモグしておいでだ。
そこへ一際大きな泣き声がしたかと思うと、3つ首の巨大な狼が出現する。
モンスターどもが作りさしの召喚陣で慌てて召喚した模様。
オレは大量のバナナを王子に預けてそいつへ向かう。
「お前の相手はこっちだ!」『装填・劣化ウラン弾!』
一つの頭に集中して貫通弾を見舞う。
『装填・焼夷弾!』
そして隙を見て体中に焼夷弾を撃ちまくってやった。
「ギャァオオオ!」
炎を消そうとして洞窟の壁に体当たりしまくる狼。モンスターどもがその巻き添えになって潰れていく。
「今だ! 脱出する!」
狼が暴れて散り散りになったモンスターの間を駆け抜けながら焼夷弾をひたすらばら撒く。
洞窟の中にはこの森のほとんどのモンスターが集まっていたようで外に出てもモンスターが寄ってこない。
そして洞窟の通路は現在、焼夷弾により炎の通路と化している。
これで暫くは時間が稼げるはずだ。焼夷弾の炎ならいくら屍の上と通ろうとも、少しでも地面につけば消えない火が燃え移る。
と、安心したのか、カリュリーンさんが倒れこむ。
「カリュリーン!」
「お行き下さい。このカリュリーン、ぼっちゃまにお仕え出来て幸せでございました……」
「待ちなさい、王宮に戻れば……エリクサーがあります。それを使えば……」
その言葉に顔を輝かせる王子様。しかしながら、カリュリーンさんはフルフルと首を振る。
「それは私ごときに使っていい物ではありません。それに……自分の体のことは自分が一番良く分かります」
そう言って手を王子様の頬に当てる。
「私のようなみなしごを……ここまで育てて頂いた……ありがとうございます」
「そんなっ、ボクちんこそ、カリュリーンが居なければ生きてはいなかったじょ!」
涙を流しながらその手をとる王子様。
オレはそっとカリュリーンさんの頭の付近に膝を突く。
「エリクサー、今はない。だが、ポーション、ある」
「今更ポーションなど、痛みが長引くだ・・ぐぼっ」
オレはカリュリーンさんの口にポーションを突っ込む。そう、いつかのエリクサーが入っていた瓶に熟成させていたやつだ。
そこそこ長い間置いていた、エリクサーほどではなくとも、かなりの回復量が見込める。はずだ!
ごくっごくっとカリュリーンさんの喉を通るポーション。
その度に徐々に傷が塞がっていく。
「これは……エリクサー!?」
「エリクサー違う、でもエリクサー入ってた瓶、ポーション入れていた」
「なんとっ……!? そんなことが!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「セイジ、ボクちんは国に帰ってダンジョン攻略を目指すじょ!」
「分かった、応援、する」
王子様が国へ戻るっていう日、二人っきりで話がしたいというので今は王子の部屋に来ている。
エリクサーが入っていた瓶に詰めていたポーションだが、最上級ポーションといわれるぐらいにはなっていたようで、カリュリーンさんも一命を取り留めることが出来た。
とはいえ、完全に回復とはいかなかったので国に戻って療養するとか。
「そして英雄になって、ボクちんの気持ちをカリュリーンに伝えるじょ!」
なんでもこの王子様、カリュリーンさんを失う場面になって初めて気づいたんだと。自分がカリュリーンさんを好きだということを。
どうやら姫様は、なんとなく察していた模様で、いざとなったらこれを使う予定だったのにとほざいていた。ほんと性格の悪い姫様である。
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