第50話

「これ、友好の、証」

「ムホー! これはうまいのじゃぁあああ!」


 オレはチョコバーを出して王子に振舞う。


「ごくごくっ、このお茶ととってもあうじょ」


 チョコレートとお茶は鉄壁だしな。


「このお茶はこの国の特産品ですの、ぜひお持ち帰りください」

「うむ、今後我が国に輸入させるじょ」


 お姫様はそれを聞いてほくそ笑んでいる。


「こっちの黒いのも欲しいじょ!」

「そちらはそこの……セイジが魔法で出している物でして、それほど数は……」

「いくつか、送る。友好の、証」

「むほーー!」


 月に幾つか贈る事を約束する。

 姫様にバナナと一緒に贈ってるから、それを横流しすればいいと伝えた。


「もっと出すのじゃ!」

「食べるすぎる、体、良くない」


 オレは簡単に肥満について纏めた話をする。


「そんな話初めて聞きましたわ」

「血液が……ふむ、確かに肉に圧迫されるか?」


 少々違うが、まあ結果は似たようなもんだ。

 王子の侍女の方はなんかメモっておいでだ。


「ボクちんは腹いっぱい食べたいじょ!」

「体、動かす、するとへこむ」


 食べたいならそれだけ動けってことだ。

 そしたら王子様、


「ふむ、分かったじょ! この近くにモンスターがいる森があると聞いていたじょ! ボクちんがそのモンスターを退治してやるジョ!」


 突然そんなことを言いだした。どうやら姫様にいいとこを見させたいらしい。

 なんだが激しく嫌な予感がしてきたぞ。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「あわわわ・・」『メルトフレイム!』


 王子から一面を焼き尽くす業火が放たれる。

 しかし、屍を乗り越えて無数のモンスターがこちらに駆けて来る。

 なんで今回はあんなに必死なんだろうな。ああそうか、今回はオレだけじゃなく姫様もいたっけ。


 最近のオレは迂闊に森の近くに近寄れない。

 魔界の匂いってなかなか取れないらしく、少しでも近寄ればモンスターが血眼で襲ってくる。

 それでもさすがにコレは酷すぎる。一面モンスターだらけじゃないか。

 あれか? オレと姫様で倍、そして姫様は女性なのでさらに倍、とかいう。


「こんな所でモンスターの軍勢だと!?」

「王子と姫様を守れ、二人だけでも逃がすのだ」


 オレと王子、姫様を乗せた馬車を逃がす護衛の方々。

 いやぁ、これ逆効果じゃないっすか?

 ほら、護衛の人達無視してこっちを狙って来てる。


 とたんに追いつかれる馬車。

 モンスター達はオレ達を銜えたかと思うと森に向かって走り出すのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ですから言いましたのに……」

「あわわわ……がたがたがた」


 なんか広場のような場所で得体の知れない物を集めてきている。

 人型のモンスターどもなんて薪を囲って踊っておいでだ。

 オレ達はどこかの洞窟らしいとこに連れてこられ、祭壇らしき物の上に乗せられている。


 姫様は達観した目でそれを見つめならがブツブツと呟いておいでだ。

 ここに来る際、一番反対したのが姫様で、


「わたくしは少々、モンスターをおびき寄せやすい体質で……」


 とか、


「わたくしは外に出るとアレルギーが」


 とか、色々言ってごねていた。すっかりこないだの事がトラウマで引き篭りになって候。

 そういえば、大国に向かったときの竜籠の中でも隅っこで震えてたっけ。

 それでも王子様、


「ボクちんに任すと良いのじょ! エリザイラ姫はボクちんが守る!」


 なんて胸を張ってかっこつけてたものですが。

 今や真っ青な顔でガタガタ震えているご様子。


「ねえセイジ、これからどうなると思います?」


 食べる気、という訳ではなさそうだ。

 状況を見る限り、オレ達をイケニエか何かにして召喚魔法? みたいなことをしそうだな。

 その際にバッサリやられる可能性大ってとこか。


「ふ、二人ともなんでそんなに落ち着いておれるのじょ?」


 まあ、それなりの修羅場を経験してきましたし~。

 あのときの魔王様の迫力に比べりゃまだましかな。

 なんせ壁が溶けていくんだもんなぁ。


「全部倒す、それ以外、道、ない」

「やはりそうでしょうね」


 オレはこっそりとチョコバーを量産中である。


「むむむ、ムリムリ無理、絶対無理だじょ!」

「王子様、ちょっといいとこ、見てみたい」


 オレは王子様を一生懸命ヨイショする。

 あっ、姫様もノッてきた。

 おっ、なんかモンスターどもまで手を叩き出したぞ。


「そ、そうかじょ。そこまでいうなら隠してたとっておきでも披露するじょ!」


 だんだんとノッてくる王子様。

 オレ達は一斉に拍手する。

 モンスターども自分達がやられるっての理解しているのかな? しているはずないか。

 その時だった! 奥の方で数体のモンスターが吹き飛ぶ。


「ぼっちゃま!」


 そこにいたのは……今にも倒れそうなぐらい重症を負った1人の女性であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る