第49話 ボクちん参上!

「ボクちん参上!」


 オレは唖然とした顔で指をさす。

 隣の姫様はニッコリして頷く。

 オレの指さす先に居たのは……少々おつむが残念そうな、まんまるおで・・こほん、ぽっこりお腹の中学生ぐらいの子供であった。


 えっ、これが大国の王子様? なんかよだれとか垂れてないっすか? えっ、ほんとに王子?


「ぼっちゃま、お口が汚れてございますよ」

「うむ、くるしゅーないぞ」


 御付の方に口元を拭かれてござる。

 姫様、もっと他になかったので? さすがにこのお方が婚約者とは……もっと自分を大切にしようぜ。


「あれなら、いざとなった時でも御しやすそうでしょ?」


 そっちかよ! ほんと恐ろしいなあんた。


「まだ成人されてないので、時間も少々稼げますしね」


 ボソッと呟く姫様。なんの時間を稼ぐのよ?

 姫様は王子様の手を引いて王宮に入っていく。

 今回オレは姫様の護衛として雇われている。

 シュマお嬢様は大層反対されたのだが、


「領地が……」


 の言葉にしぶしぶ従うしかなかった訳で。

 それでもお嬢様は、


「セイジが行くなら私も行く!」


 って言って駄々をこねたのだが、連れて来なくてほんと良かったよ。

 万一、あの王子様に見初められた日にゃ目もあてられない。

 お嬢様はフォルテとラルズさんと一緒にダンジョンに向かった。八つ当たりの相手を探して。


「ぢゅふふふ、見れば見るほど美しいのだ。エリザイラ姫の前では、あの世紀の美姫といわれているライスント家の娘ですら霞んで見えるじょ」

「お褒めに預かり光栄ですわ」


 オホホと笑う姫様。

 しかしさすが姫様だ。嫌悪感などおくびにも出さない。

 ニコニコと微笑みながら、まるで本当に愛情があるがごとき様。

 性格は歪んでいるが、その徹底した行動には賞賛を送らざるを得ない。


 しかし、偶にこっちをチラッ、チラッ、と見てくるのだが、何かの合図だろうか?


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ぶはっ、ブハハ、いた・いたたた。しかし……ぷっ」

「笑いすぎですわ、お兄様」


 妹のあんな可愛らしい場面を見られるとは、と笑いを隠しきれない兄の王太子であった。

 どうやらこの妹、セイジに焼きもちでも焼かせようと、王子と仲睦まじい様を見せ付けていたようだが、まったく相手にされていない。

 チラチラとセイジの顔色を伺う様子はまるで子犬のようで、なんとも微笑ましかった。


「しかし、あの大国エステモートの王子を出汁に使うとは、少々やりすぎじゃないかな?」

「出汁に使うなんてとんでもない。わたくしは『どちらも』本気ですわ」


 どちらもねえ。とはいえ目的の内容は同じじゃなさそうだね。そう思う兄である。


「姫様、テーブルの準備が完了してにございます。プッ」


 護衛の侍女にまで笑われる姫様であった。


「いた、いたたた、ちょっと姫様、本気で蹴らないで下さいよ」

「そういえばあんた、わたくしが魔界の魔王に攫われそうになったとき、死んだフリしてたんだってね」

「え……な、なんのことでしょうか?」


 冷や汗をダラダラと垂らしながら、そっぽを向く侍女。

 ジーと顔色を伺う姫様。


「ほらエリザ、あまり王子を待たすものではないよ」


 そこへ助け舟を出す王太子。


「後でよくお話をしましょうね」


 ニッコリと侍女に笑顔を向ける姫様。


「私、本日限りでお暇を……」

「逃げたら地の果てまで追いかけますから」

「……はい」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「すごい、すごいじょ! かっこいいのだ」


 オレは大木に向かって様々なモーションをとりながら銃をぶっぱなす。

 この王子、見た目はあれだが、見所がある。

 オレが大木に向かって銃をぶっぱなしたところを見て、目を輝かせて賞賛してくる。


 見てみろ、これがローリングアタックだ。そしてこれがスライドモーション!

 あっ、外した。やべえ花壇の花が……


「よいよい、ボクちんが直してやるじょ」


 王子は壊れた花壇に近づくと魔法を唱える。すると、だ。まるで時間を撒き戻したかのように元に戻っていくじゃありませんか。


「王子様、凄い!」

「そうであろう、そうであろう! なにせ我が家は皆、大魔法使いであるからな」


 王子様の御付の侍女はそんなオレ達をニコニコと見つめてくる。が、その他の人達は……


「あんな大道芸、何が面白いのか?」

「まあまあ、うちのお坊ちゃまは変わってござるからな」

「まったく付き合うこっちの身にもなってほしいものだ」


 陰口の嵐である。あんたら不殺弾ぶちこんでやろうか?


「ボクちんにも貸してもらえぬか」


 オレは王子様に銃を渡し、肩に手を置く。

 それを見た護衛の一人が剣を突きつけてきた。


「貴様、気軽に王子の肩に触れるとは、正気の沙汰か?」


 えっ、いや、こうしていないと弾が出ないのですよぉ?

 オレは必死に弁解する。


「よいよい、確かに弾が出ぬじょ。触れておいてよいじょ」


 気さくな王子様で助かった。


「ふむふむ、これは楽しいじょ!」


 王子様はご機嫌で銃をぶっぱして候。

 オレはふと思いなおして銃をミズデッポウに変える。

 突然水が噴出した銃を見て驚く王子様。


「それ、水。かけて遊ぶ」


 王子様は喜び勇んで周りの人に水をぶっ掛け始めた。

 ほらちゃんと狙ってくださいよ、あそこですよぉ、陰口叩いてたやつら。


「……これはなにごと?」

「楽しそうだねぇ」

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