第48話

「どういい案でしょう!」


 そう、セイジを本物の勇者だってことにして、わたくしの婚約者に祭り上げますの。

 そうすればいかに大国の王子とて、そうそう物言いが立ちますまい。

 それを聞いて王太子は肩をすくめる。


「大丈夫ですわ、策ならいくらでもあります」


 それを見て勇者に祭り上げるなんて馬鹿なことを、と思われたと勘違いした姫様は幾つかの策を話してみせる。

 王太子はどの話を聞いても鼻で笑うばかりだ。


「何か問題でもありまして?」

「その様子だと聞いてなかったようだね。祭り上げるも何も、彼は……女神に遣わされた本物の勇者だよ」

「ええっ!?」


 妹のびっくりした顔に満足した王太子は続ける。


「魔界の魔王が特別扱いしていた、というのでとっくに気づいていたと思ってたんだけどね。もしかして、気づかないように無意識に避けてたってことかな」


 魔王に連れ去られた場面、エンスートやハルシア、そして姫様の護衛のモルスも、魔王がセイジを勇者だと言ってたことを聞いていると。

 ちょっと待てや、モルスも聞いてた? あのヤロウ、死んだ振りしてやがったな! 後で折檻ですわ!


「し、しかし、そんな物では証拠には……」


 本物の勇者となればまた話が変わってくる。

 勇者は世界を救うべく遣わされる。いずれそうなる。とだ、自分の様な小国の姫など相手にされない可能性が高い。

 今までは、セイジが姫様に釣り合わなかったのが、今度は逆に、姫様がセイジに釣り合わない状況になる。


「彼は2年前、とある町に突然現れたそうだ。その当時、ウルフにすら敵わなかったと聞く」


 それがたった2年で、いまやスケルトンドラゴンを単騎で打ち倒すほどの実力を身につけた。

 この先、2年後、5年後、どこまで成長するか……

 女神の祝福を受けた勇者が他と違うのはその成長速度だ。

 スライムすら苦戦していたものが数年後には魔王を倒す。そんなことだってありうる。


「そ、それはシュマもご存知で?」

「彼女に話したら、英雄王に、おれはなるっ! って突然言い出したよ」


 さすが僕の惚れた子だって笑いながら呟いている。

 いやいやいや、全然良くないでしょ? むしろ呆れる場面じゃない?


「さて、エリザはどうするのかな?」


 そう言ってふと真顔をしてこう続ける。


「あの泣き虫で、いつまでも僕にべったりだったエリザはもういない。そろそろ自分の幸せという物も本気で考えたらどうだろうか」


 と。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 ―――パチパチッ、パチッ


「最初は何このしょぼいのって思ったけど、慣れるとなんか、ほっこりしてくるというか」


 線香花火、レベルアップの為に大量に使用して『もらって』おります。

 あれだ、バナナが一杯出せるんだから線香花火も出来るんじゃね? と思ったらなんと、一杯出すことに成功した。

 しかしながら、こっちは武器扱い。オレが離れると消えてしまうのだが。

 ちなみに水鉄砲とハンドガンは無理でした。あれか、弾かそうでないかが肝みたいだな。


 最近は寝る前にみんなで集まって、こうして線香花火をつけておしゃべりしております。


「そういえばセイジ、またなんか姫様に呼び出し食らったそうだね」

「ええっ、いつ! 何時何分何曜日!?」


 お嬢様……小学生じゃないんだから。

 こないだ、どうしても二人っきりで話をしたい言われたので赴いた。

 またぞろ領地の話でもぶり返すのだろうかと思っていたところ、


「……わたくしは、とある大国に嫁ぐ事になりました」


 暫くずっと無言であって、やっと口を開いたかと思ったらそう言い出した。

 なんでも、大陸一の王国の王子に見初められたんだと。

 なんか空気が重いんですが。これ祝福したら駄目な奴なんだろうか?


「何も……言ってくれませんのね」


 何を言えばいいのか? オレと姫様ってそんなに深い仲だっただろうか?

 つい最近まで互いに存在自体、知らなかった訳で、その後命を狙われて、そして暫く同じ部屋で就寝を共にした。あっ、ここらへんやべぇ奴だ。

 その大国の王子様とやらにそれがバレれば破談になりかねない。

 あれっ、オレもしかして、口封じに殺られる?


「ふふっ、今更虫のいい話ですわね。セイジ、待ってなさい、さっさと大国を掌握して、あんたを迎えに来てあげますわ!」


 と、急に元気になったかと思うとオレにそう指を突きつけてくる。

 ただ、別れ際の扉を閉める際、その顔は……あの吹雪の中で号泣していた姫様と被るのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「どうですお兄様、わたくしの芝居の評価は?」

「……つくづくエリザが味方で良かったと思うよ」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 そのセリフを聞いてなければグラッときていたかもしれない。恐ろしい姫様だ。

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