第47話

「フォルテ、これ、プレゼント」


 結局オレは、折れた短剣を選択してフォルテにプレゼントした。

 なにせここ最近のMVPはフォルテである。

 フォルテがいなければ姫様の護衛にさっくりやられていただろうしな。

 アイアンゴーレム戦でも大活躍であった。


「俺、バナナの皮剥いてただけなんだけど?」

「フォルテ、お手柄、これ、オレの気持ち」


 なんせ一応神器? なんだろ。きっと打ち直せば輝く短剣に変わるに違いない。


「兄ちゃん……ありがとう! 俺、一生大事にするぜっ!」


 いや、ちゃんと使ってくれよ?

 まずは打ち直ししてもらうか。


「ヤダ! これは兄ちゃんからのプレゼントだ! 誰にも触れさせねえ!」


 打ち直してから渡すべきだったな。

 まあ初級ダンジョンのアイテムだし、そんな大した物でもないか。お守り程度に持ってればいいかもな。


「ねえセイジ、私にはないの?」


 今回はフォルテ向きの選んだからなあ。


「お嬢様、英雄、オレの、プレゼント」

「んっ、もーー!」


 お気に召さなかったようだ。頬を膨らませてプイッと横を向く。

 今度、何か買ってくるかな。


「わたくしににもプレゼントを頂けませんかね?」


 そう言いながら姫様が部屋に入ってくる。

 と、シュマお嬢様がオレの前に庇うように立ち塞がったかと思うと、背中でグイグイと押してくる。

 どうやら少しでも姫様から遠ざけたい模様。


「ふふふ、可愛いらしいこと」


 まったくですね。


「セイジ、化粧水が切れましたの。こないだの話の続きもしたいですし、わたくしの部屋に来ませんか?」

「ダメッ! セイジは……私とこのまま領地に帰りますのっ!」

「おやおや、一国の姫君の頼みを断ると申しますの?」


 シュマお嬢様がガシッとしがみ付いてオレを上目遣いで見てくる。瞳をウルウルさせて候。

 そんなお嬢様を裏切れる訳もなく、


「必要なだけ、出す。器、用意」


 しょんぼりとそういうしかなかった。とりあえず出すものだけ出して後は許してもらおう。

 ああ、今度はどんなの持ってくるかなあ。プールサイズとか来たらどうしよう。


「そうですか、それじゃこれにお願いしますわ」


 そういって小瓶を差し出してくる。

 えっ、これだけ? これだけでいいの?


「毎週お願いしますわね」


 そうきたか……


◇◆◇◆◇◆◇◆


「パパァ、ボクチン、エリザイラ姫様に一目ぼれしちゃったよ」

「おお、おお、そうかいそうかい、よいぞ」

「変われば変わるものですね、あのそばかす娘が……」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 はぁ……これで何通目かしら。

 エリザイラ姫が部屋でため息をつく。

 今までこっちを見向きもしなかった者達からの盛大なラブレターの嵐である。

 化粧水、いえ、それだけではない、セイジから貰ったポーション水にバナナ。これだけでこんなにも変わるなんてね。


 そう思いにふけりながら鏡を見やる。

 シュマはいいですわよね~、この上さらに、セイジが入れてくれたお風呂に入ってるそうですし。ほんとわたくしもセイジが欲しいですわ。

 こないだ、大国の催しに久しぶりにお呼ばれしたので王太子と共に参加してきた。


 なにせ短期間に英雄が二組も誕生である。

 兄妹そろって、というのもポイントが高かったらしく、ぜひその者を見たいと。

 策を弄して二人を連れて行き、シュマをうまいこと王太子の婚約者候補に祭り上げてきた。


 見た目も申し分なく、地方の領主の娘。

 英雄という肩書きだけでもどれほど魅力的なものか。

 あちらこちらから婚約の申し出が止まらない。

 このままいけば……と脅しをかけ、今だけでも……と無理やり兄の婚約者候補に名乗りをあげさす。


 フフフ、馬鹿な子。あんな大きな場で名乗りを上げておきながら『今だけ』なんてのが通じるはずもありませんのに。これでセイジはわたくしのもの。


 と、ほくそ笑んでいたのもつかの間。

 今度は自分に向かって婚約話が殺到する。

 これがまた頭を抱えそうな顔ぶれ。大国の王子に英雄王。断るにしても一つ間違えれば戦争になりかねない。


 わたくしとしたことが……これが墓穴を掘るというものですか……


「どうするんだいエリザ」


 妹の困ったような顔にすごくいい顔をして問いかけてる。

 くっ、人が困ってるとこ見て喜んでやがります。

 エリザイラ姫はキッと王太子を睨みつける。


「おお、怖い怖い・いた、いたたた」


 にっこり笑って答える王太子に、思わず蹴りが出る姫様。


「セイジは……固有神器の持ち主でしたわね」

「おやおや、黒い笑いだねえ……」

「セイジを……本物の勇者として祭り上げましょう」

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