第43話 帰還…?

「うげげっげぇええ! おぼぉぼぼぉーー!」

「セイジ、そんなに無理しなくても……」


 地面をのた打ち回っているオレに姫様が憐れみの目を向けてくる。


「姫様、帰りたい、オレ、同じ」


 早く帰って、バナナ以外も食いたいッス!

 ああ、まぐろ鳥よ! 待っていてくれ! オレはお前を離さないぞ! 胃袋から。


「セイジ……ふっ、帰ったら領地持ちぐらいにさしてあげますわ」

「領地、要らない、襲われない、十分」

「あいかわらず失礼な奴ね。この私があげるというのに断るなんて」


 姫様は憮然とした顔をする。

 領地なんていらないっすよ。貰ってどうすんスか?

 領地経営なんて銃の扱いどころの話じゃないっスよ。


「まあ、要らないって言ってもあげるんですけどね」


 あいかわらず性格が歪んでますなあ……

 なんか帰りたくなくなってきた。この姫様、置いて帰ろうか?


「ふふっ、まあ期待してなさい」


 そう言ってほくそ笑む姫様。嫌な予感しかしない。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ビィヤァアア! うわぁああんん! ブューっ! うにゃぁあああああ!」


 オレはほとほと困り果てていた。


 アレからなんとか、東京ドーム一杯にバナナを作り出せた。

 あんのくそまずい魔力回復剤のおかけで、そんなには時間がかからなかった。

 まあ、そこまでは良かったのだが……


「……ここはどこ?」


 魔王さんに地上に送り届けてもらったのはいいんだが、そこがどこか分かりません。

 てっきり召喚した場所に戻されるとばかり思っていたんだが……


「なんか吹雪いてんですが……」


 オレ達が攫われていたのは春頃、どんだけいたか知らないが、いくらなんでもいきなり冬は無い。

 しかも、だ。あの国にこんな猛吹雪は体験した事が無い。

 積もってもせいぜい数センチ。これ何メーター積もってんだ。


 で、姫様がよろよろと木に向かう。

 そして雪を払いじっとその木を見つめて……突然泣き出した。


「もどれにゃい、もどれにゃいにょーー!」


 なんか幼児言葉で叫んでござる。

 よくよく聞いてみると、どうやら北方の大陸の木々らしい。

 ということはだ、ここはかの国ではないということで。しかも少々? 遠い土地になるらしい。

 人が歩いて戻るには、とてもじゃないが無理なんだと。


「わぁああーーん、ぐすっ、ずずっ、うわあぁあああん!」


 たとえ魔界に落ちても自分を見失わなかった姫様は、今や影も形も無い。

 ようやく地上に戻れる、散々苦労してやっと、といった場面、地上に戻ったはいいが自国とは遠く離れた異国。

 戻れたと思ったところに、とんだ大どんでん返し。

 とうとう、なにかがふっ切れられたご様子。


「姫様、希望、まだある」

「にゃいのーぉー! もう、らめぇなのぉおーー!」


 姫様のらめぇ頂きました。

 オレが何を言っても泣き止まない。

 ただひたすら一生懸命あやすしかない。ミミルちゃんで鍛えておいてよかったよ。


「ぶずっ、ずっ、おなかすいたぁ」

「姫様、バナナ」

「いりゃにゃいのー! ばななはもういりゃないー!」


 ようやく落ち着いたかと思ったら、バナナを見てまたぶり返しました。

 と、その瞬間、バナナが輝き始めた。

 まあ、散々バナナ使ったからなあ、そりゃレベルアップもするか。


 オレはそのレベルアップの内容を見やる。


 能力値上昇:産地ブランドアップ


 弾選択:チョコバー


 もうなんでもありだな。おっ、なんかバナナも種類が変わったな。おぅ、うんめぇ。これはきっといいとこのバナナに違いない。


「姫様、バナナ」

「いらにゃいのー!」

「姫様、チョコバー」

「いらにゃ・・もぐっ」


 オレは大口を空けたとこへチョコバーを突っ込む。


「むぐっ、もぐもぐはぐはぐ」


 猛烈な勢いでガツガツいく姫様。

 うぉっ、オレの指が食べられるっ。


「しょっぱい……でもおいしゅい」


 しょっぱいのは涙と鼻水のお味かと。

 オレは自分の服の裾で涙と鼻水を拭いてあげる。

 そしてチョコバーを何本かだす。


「あまい! おいしゅい!」


 姫様は夢中でそれを頬張っておいでだ。

 すっかり幼児退行されていらっしゃる。


「姫様、オレ、必ず、戻してやる」

「ほんとうにゃの?」


 チョコバーを咥えたまま上目遣いで見てくる。

 この姫様も、こうしておとなしくしていれば、すごく可愛いんだがなあ。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「え、エリザイラ!」


 王太子は一言そう言ったかと思うと姫様を抱きしめる。


「大げさですわお兄様。ほんの少し、魔界に遊びに行っただけですわ」

「ハハ、相変わらずエリザは肝が据わっているな、魔界に行ったのをちょっと遊びに行ったなど」


 姫様がオレの方を向いて目を光らせる。

 うん、言いませんよ? 涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったことは。


 あれからチョコバーをセットして再度召喚魔法を試みる。

 するとだ、案の定、魔王なお方が顔を出されるじゃぁありませんか。

 オレはとりあえずクレームをつける。

 今回ばかりはオレも強気である。なにせきちんと働いたのだ! その分の見返りはあって当然であろう。


 魔王なお方にとって距離はあってないようなものだとか言ってるが、こっちゃそんなこたぁどうでもいいんだよ!

 帰れないんだよ! オレ達じゃ!

 見てみろよこの姫様! 人が変わってるだろ? ……まてよ、このまま変わっていたほうがいいんじゃ?


 とりあえず元のダンジョンに戻してもらった。

 チョコバーを一部屋分と引き換えに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る