第28話

「はっ、心配すんな。ちゃんと生きて返してやるよ」


 オレの真っ青な顔を見てそう言ってくる。

 えっ、でもお顔を拝見しちゃったんですが?


「お前ほんとにガキか? そんなことに気づくとはな」


 ガキじゃねえです。もう立派な……この世界では成人ですよ!

 オレの心配事が必死の目の訴えで気づいた模様。


「俺はすでにお尋ね者だからな、今更、顔を隠すまでも無い。むしろ名前を売る絶好の機会なのさ」


 単独で動く凄腕のトレジャーハンターとか自慢してらっしゃる。

 盗賊はこっちの世界じゃ、トレジャーハンターって言うんでしょうか?

 なんかのゲームではあったな。


 そこへフードの人物が男性をせかしてきた。

 お嬢様はオレにぴったりくっついて小刻みに震えている。


「おい、英雄さん、こいつの使い方を説明してくれねえか?」


 そう言ってオレの銃を見せ付ける。

 説明しようにもしゃべれないんですが。

 それともこれ取ってもらえるので?


「イエスなら首を縦に、ノーなら左右に振れ」


 あ、ダメですか?

 男の人は銃を持ち引き金を引く。


「これを引けば魔法が出る、あっているか?」


 オレは頷く。


「魔力をこれに流しながら引き金を引く、あっているか?」


 オレは首を傾げる。


「どっちだ?」


 知らないっすよ?


「ハァ、お前は魔法が使える」


 ソレは普通の魔法がって事ですよね?

 ブルブルと首を振る。

 男性はフードの人物を見る。

 するとフードの人物は手に持った棒でオレを殴りつけてくる。


「むっー! むむーーっ!」


 後ろのお嬢様が猛抗議。

 オレはそれをソッと体で押さえつける。


「もう一度聞く、お前は魔法が使える」


 使えねーよ!

 またもや殴られるオレ。ぽたぽたと床に血が落ちる。

 嘘言ってねーのに。

 お嬢様の顔が真っ青になる。

 それを何度が繰り返され、ぐったりとするオレ。

 お嬢様は泣きながらすがり付いて来る。


「よし、お嬢様に聞く、そいつは魔法が使える」


 ブルブルと左右に首を振るお嬢様。

 フードの人物がお嬢様に向けて棒を振り上げる。

 オレはその間に体を滑り込ませる。


「むっー! むむーーっ!」


「はぁ、こりゃだめだな。やめましょうや」


 そう言って二人は部屋を出て行った。

 いって~な、覚えてやがれあんにゃろう。

 もうちょっと離れればオレの愛い奴も戻ってくるのだが。


 お嬢様は必死で顔を摺り寄せてくる。

 どうやら血を止めようとしてくれてる模様。

 お嬢様、そんなにスリスリしても血が止まらないどころかとっても痛いんですが? 可愛いんで止めませんけど。

 オレもお返しにお嬢様にスリスリしてあげる。


「お嬢様、俺なんかすげ~罪悪感が」

「なにバカ言ってるの? あんたに罪悪感なんてある訳ないでしょ?」

「だってアレ見てみろよ」

「……なんか子猫みたいね」


『赤外線スコープ・ON!』


 と、オレは心の中で唱える。

 すると、目も前の景色が一変した。

 この二つのスコープ、どちらも銃が向いている方の風景が見える。

 なので、オレから銃が離れている現状、銃を基点とした景色が見えるのだ。


 それでオレは隣の部屋の様子を探る。

 中に居るのは二人、窓から見える景色には少し離れた所に、ぼろそうな家々が見えている。

 未だ街中であることは確かか。

 ならば、なんとか脱出さえ出来ればなんとかなる。


 男性が銃を持って歩き、部屋の隅の宝箱らしきものを開ける。

 そしてその中に銃をしまいこんでしまった。

 まあ、部屋の様子は十分に窺い知れた。それに、だ、あの箱、部屋の隅の方だったから、この場所から結構離れている。

 なんとかこっちの部屋の隅に行けば、オレの愛い奴は戻って来そうな気もする。


 オレは真夜中に行動を開始することにした。

 ぴったりとくっついてたオレが離れた所為で、お嬢様が目を覚まし不安そうな顔を向けてくる。

 オレはゆっくりと強く頷き、お嬢様の額へ自分の額を当てる。

 お嬢様は顔を赤くした後、頷き返してくる。


 オレは這いずりながら出来るだけ銃が入っている箱から遠ざかる。

 そして部屋の隅まで来たとき、ようやくオレの手元に銃が戻ってきた!


『モデルチェンジ・ハナビ!』


 オレはその銃を蚊取り線香にして火をつけて縄に密着させる。

 少しずつだが縄がぷちぷちと切れていく。しかし、少々時間がかかりそうな模様。

 蚊取り線香の火力じゃ厳しいか? いっそのこと一発ぶっ放して……


 その時だった、オレの蚊取り線香が輝き始めた!


 お、レベルアップか!?

 花火のレベルアップなら火力が上がるか?よしっ、


 オレが心の中でレベルアップと唱えた瞬間、


「パッパカパー! パッパッパッ! パッパラー!」


 お隣でガタガタと慌てる様子が……

 やべえ、ファンファーレが鳴ること忘れてタワ~。

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