第27話

「あ~、また負けたぁ」


 オレは宝物庫の前で、お嬢様と即席のトランプを作ってババ抜きをしている。

 このお嬢様、何もオレと一緒にこんなとこで居なくてもいいのにな。


「セイジは私の護衛でしょ! 私から離れちゃダメなの!」


 って言ってくるが、オレの行く場所にお嬢様がついて来るのは意味が少し違うような気もする。


「もうだめだめ、今度はこっち!」


 そう言って白と黒の石と碁盤を取り出してくる。

 こっちじゃオレは勝てないんだがなあ。

 ババ抜きはお嬢様の表情を見てれば一目瞭然だ。


「ふっふ~ん!」


 一面、真っ黒に染まった碁盤を自慢そうにみせびらかせてくる。

 トランプの様な駆け引き物なら勝てるのだが、リバーシやチェスのような、ちょっとでも頭を使うものじゃまったく勝てない。

 さすがは、いいとこのお嬢様である。


「ねえセイジ、もっと他に楽しい遊びはないの? コレじゃどっちが勝つか決まってるから面白くないわよ」


 いやあ、オレ、遊んでる場合じゃないんですが。

 まあ、宝物庫の前で居るだけだから、やる事はほとんどないんですがね。

 ああ、来て欲しくないのが来たなあ。こないだ見かけた怪しい人物が壁の上に居るのが見える。

 オレはお嬢様を相手から見えないようにそっと自分の体で隠す。


「えっ、なにっ? えっ、そんな急に……」


 なんか真っ赤になって、しどろもどろになるお嬢様。

 ちょっと宝物庫に入っていてもらえませんかね?

 どうするかな。相手、人間だよな? ゴム弾でもあればいいが……実弾しか持ってねえや。

 今度はゴム弾プリーズって紙に書いとくかな。仕方ない、とりあえず足、撃っとくか。


 オレが銃を構える。すると相手は慌てたように物陰に隠れた。

 結構距離あったんだがな、察知されたか。

 これで引き下がってくれればいいんだが……


◇◆◇◆◇◆◇◆


「どうしたい? 手ぶらじゃないかい」

「……作戦変更だ。ガキといえども英雄か」


 男は身震いする。一瞬足を吹っ飛ばされる幻影が見えた。

 きっと、あのまま進めばその通りになったのだろう。


「あんたほどの手練れがかい? あんまりゆっくりしていると同業者にさらわれちまうよ」

「ここの領主には目に入れても痛くないほどの娘が居る。そいつを攫うことにする」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ん、もうーー!」


 お嬢様はまたしても膨れっ面をする。

 何がそんなに不満なんだろうか?


「セイジのばか! バカセイジ!」


 そう言ってポコスカ叩いてくる。

 だからなんだってんだってばよ。


「もう知らない!」


 そう言って駆けて行くお嬢様。

 オレはひたすら頭の上に? を浮かべるのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 急に宝物庫に連れ込むから、なんだろうってちょっと期待したじゃないバカ。

 少女はそんなことを呟きながら庭先に座り込む。


 今も目を瞑れば思い出される、首にナイフを突きつけられて連れて行かれそうになった時の事を。

 もうダメなんだろうなあって思ってた瞬間、強い衝撃があったかと思ったらセイジに抱きかかえられてた。

 あの時、セイジがいなければ私はもうここには居れなかったかと思うと今も身震いがしてくる。


 その所為か少女は少しでもセイジの傍に居たがっていた。


「はぁ……」


 少女は一つ大きなため息をしたかと思うと辺りをキョロキョロと見回す。

 一つ身震いをしかたと思うと、


「やっぱりセイジのとこ戻ろっと」


 そう呟く。

 その瞬間だった。

 強い衝撃が少女の体を貫く。

 意識を失いながら振り返った少女が見たものは……全身黒ずくめの得体の知れない男であった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 やられたっ!

 オレは望遠スコープでお嬢様を連れて遠ざかっていく男を見つめる。

 ジグザグに動いてオレの照準が定まらない。くそっ、あの一瞬でオレの攻撃方法を見極めたっていうのか?

 このままでは見失ってしまう。


 慌てたオレはそいつを追って走り出す。


「どうしたセイジ!?」

「お嬢様、攫われた!」

「なんだって!?」


 道中出会う人に事情を伝えながら駆け抜ける。


『赤外線スコープ・ON!』


 建物の影に入った男を捜す。

 なんとか見失うことなく街へ入る。


「しょせんはガキね」


 ふと背後から声が掛かる。

 その瞬間、強い衝撃に見舞われ、オレの意識は闇に落ちるのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「っつ」


 オレはうっすらと目を開ける。

 どこからか声が聞こえる。


「それでどうだい、領主の方は」

「なんでも出すってよ。はっ、良い父親じゃねえか」


 目の前には縄でぐるぐる巻きにされたお嬢様が横たわっている。


「むぐ、むぐぐ」


 オレは芋虫のように這いずってお嬢様に近寄る。オレもまた、猿轡に体は縄で縛られている。

 オレは自分の頬をお嬢様の口に近づける。息はしている。ふう、どうやら眠っているだけか。


 と、パチッと目が開いたお嬢様と視線があう。

 その距離、数センチ。


 ―――ガタガタガタッ! バタン!


 芋虫姿のお嬢様が大暴れ。あちこちの物が倒れこんでくる。


「元気のいいガキどもだな」


 そこへ一組の男女が扉を開けて入ってくる。

 あの~、男性の方、顔がモロ出しなんですが~。顔を隠さないって事は、生きては返さない、とか?

 女性の方はフードを被っているが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る