第26話 美容にはかかせません

「ほらセイジ、あれ出してくださいよ。けしょうすい? ってやつ!」


 オレのミズデッポウのレベルが上がった。

 その内容は、


 能力値上昇:ポーションレベルアップ(効果小)


 弾選択:化粧水


 であった。

 あれかな? お嬢様に毎日ポーション水を強請られていて、だったら化粧水もあったらいいだろうなぁって思ってたからかな?

 しかしハナビのレベルは上がらない。なんせ線香花火だしなあ……また火にくべるか。いやいや、花火を火にくべるのはさすがに邪道だろう。


「ふっふっふ~ん。なんだかとっても美しくなった感じ? 見せるのがセイジだけなんて勿体無いワ~」


 だったらさっさと学校いけや。

 このお嬢様、学校にも行かず、家庭教師を雇って勉強している。

 なんでも、あんな下等な所なんて自分の通うような所ではないと。

 ワガママなお嬢様である。お兄様も頭を抱えていらっしゃいましたよ?


 えっ、お兄様はその後どうなったかって?

 数日後に挙式の予定です。

 あの後、アルーシャさんが呼ばれて何がなんだか分からないような顔をしていたので、二人して必死で目で合図を送りました。

 なんとなく察したアルーシャさんは話を合わせてくれて、とんとん拍子に式の話まで。


 若旦那とアルーシャさんからは「セイジは僕らのキューピッドだ」なんて言われ、大層喜んでくれた。

 でも、次からは自分でなんとかしてくださいよ?


 それで今、この街は式の前準備でおおわらわだ。

 人類未踏のダンジョンを攻略した英雄のカップル婚。そりゃもう、一目見ようとあちこちから人々が大勢集まって来ている。

 実にこの国での英雄誕生は30年ぶりとか。

 そりゃもうお祭り騒ぎであります。


「ちょっとセイジ! どこ見てますの! もっと私を見なさいよ! ほら、とってもツルツルのお肌!」


 そりゃようございましたね。


「ん、もうーー!」


 そう言って頬を膨らませるお嬢様。

 色々人が増えてくるって事は、良い人ばかりが増える訳ではなく、悪い人も当然、増える訳で……


『望遠スコープ・OFF』


◇◆◇◆◇◆◇◆


 一人の男がとある建物に入る。


「どうだった?」


 その建物の中ではフードを被った人物が居た。

 声から察するに女性であることが窺い知れる。


「ありゃあカモだな。自分達がどういう立場にいるかってのを理解していやがらないタイプだ」


 男がその女性に状況を説明する。

 護衛は3流もいいとこ、屋敷にはセキュリティなど見受けられない。先ほども、あちこちに侵入して回ったがまったく気づかれない始末。

 問題は英雄本人だが、3人のうち1人は女性、しかもほぼ荷物持ちだと調べはついている。

 もう1人は子供。神器を持っているというが……神器さえ取り上げれば只の人。子供だしどうとでもなる。その神器も頂くとしよう。

 最後の次期当主だが、これは動きが掴みやすい。丁度、今は式の段取り中だしな。


「ふっ、ここは魔境より遠く離れた比較的安全な地。きっと平和ボケしているんだろうな」

「まったくでさ。英雄が持ち帰った財宝、その価値すら、まともに理解していないんでしょうね」

「まあ、こちらには好都合だ。根こそぎ奪わせてもらうとするか」


 二人が笑いあう。

 しかし、ふと、男性の方が顔をしかめる。


「これで神薬もありゃ~、言う事なかったんですがね」

「……まさか攻略翌日に王家に献上するとはな。ここの領主はバカなのか?」

「いや、意外と正しかったかもしれやせんぜ」


 なにせ神薬ともなればギルドはおろか王侯貴族すら動く。

 それを手に入れようと戦争が始まったかもしれない。

 そうなればこんな小さな領地、あっという間に焦土と化していただろう。


「そうだな。結果的には王家の信頼を得たことになる。他人に盗まれることなくその価値を発揮したと言えない事も無い。それを狙ったなら……少々骨が折れる相手かも知れぬな」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「えっ、屋敷に侵入者だって!?」


 オレは時々、望遠スコープで屋敷を見て回っている。

 偶にピンクなシーンが・げふんげふん。いや、ちゃんと護衛として仕事をしないとな。

 で、本日その望遠スコープに映る人影が。


 裸眼で見ると何も見えないのだが、望遠スコープで見るとはっきりと人影が見える。

 魔法的な何かで身を隠しているのだろう。

 オレは急ぎ若旦那にそのことを報告する。


「そうか……ダンジョンの財宝を狙ってきたのかもしれないな」


 ダンジョンの財宝だが、武器などのそれぞれ必要なものを残してみんな若旦那に売りつけていった。

 なので、ほどんどの物がここに残っている。

 尚、ラスボス3体の魔石については値がつけられないので、そちらは若旦那預かりで保留である。


「まずいな……うちじゃ、大したセキュリティがないぞ。その道のプロとかきたらどうしようもない」


 若旦那はすでに敗北宣言だ。

 もっとがんばろうぜ?


「いっそのこと全部王家に売っぱらうか……万一鉢合わせでもして、使用人に犠牲でもでたら取り返しがつかない」


 とはいえ、どうやって王家に持っていくので?

 道中襲われたらそれこそたまったもんじゃないっすよ?


「セイジ行ってくれるか?」

「ヤダ」

「だろうね」


「王家の者に取りにこさせれば良いじゃろ」


 そこへ、お父上が言葉をはさんでくる。

 お父上のお話では、エリクサーを献上した時に大層喜ばれたそうな。

 他にも良いものがあればいい値で買い取ろうと言ってくれたらしい。

 だったら、王家の方から欲しいものを選別に来て貰うのもありじゃなかろうかと。


「なるほど、それはいいかもしれませんね」


 その人達が来るまではどうされるので?

 えっ、なんでオレを見てきますか?

 イヤですよ? ダメですよ?


「僕たちの中で一番の適任者は君しかない」

「そうじゃそうじゃ、ボウエンすこーぷ? でしか分からないんじゃろ? 他の誰が対応できるのじゃ」


 さ、索敵はしますんでその後は……


「なあセイジ、館に居る護衛でなんとかなると思えるのかい?」


 無理でしょうなぁ……

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