第25話
「ちょっとセイジ、父上に押し付けないでくれないかな」
若旦那のダンジョン攻略が広まったのか翌日、お父様がすっ飛んできた。
なのでオレは、そのお父様にエリクサーを押し付ける事に。
「あわ、あわわわ、王都に伝える、他所の貴族がちょっかいかける、わし死亡、ひぃい!」
想像力豊かだなこのおっさん。
「いやまてよ。どこかの狂った魔術師が忍び込んでくる、エリクサーを用いた実験をこのわしに……ひぃいい!」
レパートリーも豊富だな。
「いかん、どう考えてもわしの家で扱える代物ではない」
お父様はその足で王都にエリクサーを献上しにいくのだった。
「良かったのかい?」
さすがお父様です、王様ならなんとかするだろ。
「大きな力、身、滅ぼす」
「ふっ、セイジの言葉は短いが、一つ一つが重いな」
「御見それしました、おぼっちゃんが英雄になるとは……この爺、もういつお迎えが来ても構いません」
お父様が置いていった執事さんやらメイドさんやらが若旦那にすがり付いて泣いている。
「爺、僕はまだまだヒヨッコだよ。冒険者としては一流になれたかもしれない、だからといっても領主としては1年生ですらない。まだまだ僕には爺が必要なんだ」
「おぼっちゃまああーー!」
「若旦那はいい領主になりそうだな」
「その勢いでオレ達も楽にさしてくれよ」
冒険者さん達は若旦那に笑いかけてくる。若旦那もそれに笑い返す。
もうここに来たときの様な、ギスギスした雰囲気はどこにも無い。
オレ達はそんな冒険者さん達の笑顔に見送られ帰宅の徒につく。
「お兄様ぁああーー!」
「ぐふぅっ」
家に帰り着くと同時、妹さんが若旦那に突っ込んで来た。
「ひどいですぅ! 私のセイジを独り占めして!」
えっ、そっち?
妹さんはオレの方をじっと見つめてくる。
「いいですか! たとえあなたが英雄となったとしても、私の小間使いには変わり有りませんからねっ!」
そう言って念押ししてくる。
そういやオレ、妹さんの世話係りとして雇われたんだっけ?
「オレ、お嬢様、下僕、変わらない」
「ま、まあ、下僕ってのはやめてあげますけど。ただし! 今度からは私から離れないことっ!」
妹さんは随分寂しかった模様。
オレは妹さんのタックルにむせこんでいる若旦那をニヨニヨと眺める。
「ひどいよセイジ、人の不幸を笑うなんて」
そんなこと言って、途中バルドック兄貴達の町に寄ったとき、方々からくるタックルに耐え切れず、地面に転がっていたオレを笑ってたじゃありませんか。
町に戻ったらすごい勢いで孤児達が突進してきた。
俺達のあんちゃんは英雄だって興奮しまくりでした。
宿屋の姉さんなんて、感無量でバルドック兄貴を抱きしめてたッス。
プロポーズの時はあれだけ照れてて、チョンとした口付けだったのが、それはもうとても情熱的な接吻を。
まあ、旦那が英雄になったんだからな。そら喜ぶわ。
アイラ姉さんとヒュッケルさんも、そりゃもう手厚い祝福を受けてたっけ。
ギルマスなんて大層張り切って、
「俺達の町から4人も英雄が出るとは、こりゃ忙しくなるぜ」
なんでも、英雄が現れた町ってのは、冒険者のメッカになりやすいそうな。
そんなこんなで数日経ったある日、ようやくお父上が帰ってくる、でっかい爆弾を抱えて。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「喜べ、エンスート、お前に縁談が大量に舞い込んできたわ!」
「えっ!?」
えっ!? ちょっと若旦那、もしかしてお父様に……
「見てみろ、こっちなんて公爵令嬢じゃぞ。王様も年の近い娘がおったらと嘆いておったわ」
オレ、し~らね。
そっと出て行こうとしたオレの襟首を捕まえる若旦那。
なにでしょうか?
「もちろん手助けしてくれるよね?」
いやいやいや、これはもう若旦那の責任でしょ?
もはやオレに出来る事はないと思います。
「そこをなんとか」
どうしたらいいのよ?
「若旦那、迷宮、誓い合った」
「えっ、君とかい!?」
なんでだよ! 男同士でどうしろってんだ!?
「若旦那、一度死んだ、蘇らせた、愛の力」
オレは必死で説明する。
最後の最後でドラゴンに腹を切り裂かれ、若旦那の命の灯火が消えようとしていたことを。
そこでアルーシャさんが女神に祈る、するとだ、オレの元へ女神が訪れエリクサーを手渡してくれたと。
そのエリクサーを飲み一命を取り留めた若旦那は、アルーシャさんの愛の祈りに心打たれ、ダンジョンから出たら結婚しようと誓い合ったと。
という設定で。
「なんと……そんなことが……!?」
「父上、勝手に決めてしまって申し訳ありません。しかし、僕はもうアルーシャという心に決めた女性が居るのです」
「……エンスートよ、お前はもはや英雄だ。その言葉はわしより強く、重い」
お父様はそう言うと窓辺に向かい外を見る。
「好きにしろ、お前にはそれが出来るだけの力を手に入れたのだ」
「父上……!」
若旦那はそんなお父様を背後から抱きしめ、
「ありがとうございます」
そう言うのだった。
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