第23話

「セイジ、肉焼けたぞ、お前も食うか」

「うす」


 オレはこんがり焼けた肉をほお張る。

 えっ、ラスボスはどうしたかって? 今現在も戦闘中ですよ。

 ただし、その戦闘方法は、


「兵糧攻め……だって!?」


 そう、兵糧攻めでござる。

 ラスボスの間の入り口は一つ、すなわち、やっこさんが出てこない限り、食料の調達ができないって事です。

 時たまラスボスが吼えるとモンスターが寄ってくるので、それを食料にしていたんだろうが、


「また来たぞ、若旦那頼む」


 オレ達の食材となってもらっている。


 しびれを切らして出てこようとしてもオレの銃弾の雨あられ。

 ドラゴンは入り口を通れるが、2体のゴーレムは大きすぎてどうやら出て来れないようだ。

 すごすごと引き下がっていく。


 意外と焼夷弾も使えます。

 ワニの表面を燃やしてくれるし、体の中に突き刺されば中から火が出る。

 これの所為でやっこさん、回復魔法なしには戦うのを躊躇っている模様。


「これどんくらい続くんだ? あいつ腹減るのか?」


 まあ、ワニはあまり食事を取らなくても生きていける動物だし、そうそう根をあげることはないだろうが、オレと若旦那の魔法で壊れているゴーレム回復しているからな~。

 回復魔法は結構おなかすくんじゃね? 知らないけど。


「若旦那、交代、いいか?」


 精神力? らしいものが切れてきたので、若旦那にゴーレム戦を変わってもらう。

 しかし、これレベルアップ早いだろうな。

 一応コア壊している訳だし、もちろん経験値入ってるよね?

 あと、いい射撃の練習にもなっております。


 若旦那は氷の魔法で部屋の中の温度を下げる。

 ドラゴンの中でも、地竜は寒さに弱いんだとか。

 これでドラゴンの体力を奪っていく。

 氷出して風送るだけだから、あまり魔力も使わないらしい。


 そんな事を何日か繰り返していた日、ついにワニがキレ始めた。おっとドラゴンだった。


 攻撃を受けるのも構わず通路を辿りこちらへ突進してくる。

 若旦那の魔法でワニの鱗が吹っ飛ぶ。

 オレはそこへホローポイント弾や焼夷弾を無数に撃ち込む。


 通路がいっぱいいっぱいなので避けるところがないドラゴンは蜂の巣だらけ。

 辿り着いたところで身動きがほとんど取れないから、簡単にバルドック兄貴に攻撃を受け止められている。

 そこをすかさす、ヒュッケルさんが斬りつける。指が一本、飛んでいきました。


 腹ペコな所為か、たちまち勢いをなくしていくドラゴン。

 すでに両目は潰され、脳みそは穴だらけ。

 オレの何度目かの貫通弾が頭から尻尾へと体を縦に貫く。そして遂に、地響きと共に倒れ伏すのだった。


「ほとんど無傷だぞおい」

「兵糧攻めか……モンスターにも利くとはのぉ」

「開いた口が塞がらないわよ」


 本当に死んでるのかどうか、バルドック兄貴が確かめている。


「大丈夫のようだ」


 オレ達も警戒しながらドラゴンの横を素通りする。


「まだゴーレムは生きてるわね。あいつらもやらないと駄目みたいよ」

「よし、右はセイジが、左は僕とアイラさんで同時に倒そう」


 オレは劣化ウラン弾をセットして銃を構える。


「いくぞっ!」

「おう!」


 オレ達3人は一斉にゴーレムに向かって攻撃を始める。

 しかし、ゴーレムは腹ペコで弱っている訳ではないので、そうそう沈まない。

 互いに互いを回復しあって……いや、待てよ、左手の奴、回復していないじゃ……


「まずいっ! 若旦那! 後ろだ!」


 オレは思わず叫んで後ろを振り返る。

 そこには、


「アルーシャ!」


 最後尾に居たアルーシャさんに、今まさに爪を振り下ろそうとしているドラゴンが!

 あのゴーレム、後ろのドラゴンを回復してやがったか!

 アルーシャさんに爪が触れる瞬間、若旦那がアルーシャさんを突き飛ばす。しかし、


「わかだんなぁああ!」

「あにきぃ!」

「おう!」


 バルドック兄貴が大盾でドラゴンの鼻先をぶったたく。

 そこへヒュッケルさんがドラゴンの首を欠き切る。


「セイジ! 左、終わったわよ!」


 ここぞとばかりに右のゴーレムに連射する。

 そして右のゴーレムも砕けていく。

 ドラゴンもまた同時に倒れ付す。


「セイジさん! 若旦那が!」

「ポーションだ、ありったけのポーションを掛けろ!」


 振り返った若旦那の姿は……腹が割け、中身が飛び出している。

 それを必死で詰め込みポーションを掛けるバルドック兄貴。

 アルーシャさんはそれにしがみ付いて泣いている。


「バルドック……もう、無理よ」

「まだ帰り道がある……無駄に使うでない」


 オレはフラフラと若旦那に近づく。

 ふと音がした。

 右側を見る。そこには光り輝く銃が落ちている。オレの右手から滑り落ちたようだ。

 いまさら……いまさら、レベルアップしたところでっ!


 のろのろと震える手で銃を拾い上げる、そしてオレは「レベルアップ」と唱えるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る