第17話

「大丈夫か! 早くコレ、飲む!」


 オレは倒れている娘さんに、ミズデッポウからポーションを出して飲ませる。


「げぷっ、もう無理」


 全身に傷を負っている場合はポーションを飲んで治すのが最適だ。

 しかしながら、一定以上は腹が膨れて飲めないという欠点があったりもする。

 まあ、傷も徐々に治ってきてるから大丈夫だろう。

 服は所々破れているが、さほど怪我はしていないようだ。


 馬車から落とすのは一か八かだったが地面が柔らかい土で助かった。


「シュマ! よかったシュマ!」


 お父様が泣きながら娘さんを抱きしめる。


「助かった、本当に助かった! え~と、セイジ、だったか? 本当にありがとう!」


 そう言ってオレの手をとってくるお兄様。


「オレ、魔法使い、役に立つ」


 ここぞとばかりにアピールをするオレ。


「いやそれ、魔法じゃないだろう」


 えっ? お兄様がそんなことを言ってくる。

 やっぱりオレの銃、魔法じゃなかったんスか?


「魔法というのは、こういうのをいうんだよ」


 そう言うと、お兄様は手のひらに炎の塊を作り出す。

 お兄様、魔法使いだったんですか!


「君のそれは……その、変わった形をしたそれから出ているだろう」


 そう言ってオレの銃を指差してくる。


「確かに、一瞬魔力が集まっているように思えたが、そんな程度で魔法は使えない。それは……神器じゃないのか?」

「神器……?」


 お兄様が説明してくれるには、世の中には神器といって、大変、珍しい武器や防具があるとのことで、それを用いれば魔力が無い人間でも魔法が使えるようになるそうな。


「代表的な例でいえば『エクスカリバー』剣の神器で、魔力が無い人間が使っても、その衝撃派で岩をも切り裂く。魔力がある人間が使えば、山をも切り裂くといわれている」

「オレのコレ、神器?」

「え、神器だって? ちょっと見せてよ!」

「それはダンジョンかどこかで手に入れたのかね! ぜひ売ってくれ! 言い値で買い取ろう!」


 さっきまで泣いてた子がもう笑っていますよ。

 あと、オレから離れると戻ってくるので売れないッス。

 オレがそう言うと、


「何、固有神器だって? そんなものは勇者か英雄クラスにしか……」


 あっ、オレ一応、勇者らしいッス。

 あの女神さん、おめでとうって祝福してくれたッス。

 ……どこがどう勇者なのかは知りませんが。


「ねっ、お父様! 私って見る目あるでしょ!」

「う、うむう。仕方ない、我が家で雇ってやる事にしよう」

「やったぁ! あなたは今日から私の下僕ですよ!」


 下僕ッスか?

 まあ、今までも下僕のようなもんだったし。たいした違いは無いかもしれない。


「そうだ、その神器、どれほどの威力なのだ!? ぜひ使ってみてはくれないか」


 オレは近くの大木に向かって数発ぶっぱなす。


「これだけ?」

「これだけ」

「「「つかえね~なあ」」」


 異世界人、皆、言う事が一緒だな。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 銃は凄く役に立つのにな。

 異世界人はあれだ、爆発しないとダメージならないと思っているのではないだろうか?

 ん、なんかお兄様が緑色の魔石を取り出したぞ。


『ウインドスラッシュ!』


 お兄様がそう唱えて腕を一閃。

 大木は音を立てて倒れていきましたとさ。

 うん、銃、役に立たないかもしれない……魔法すげ~わ。


 ちょっとへこんでいると、


「大丈夫よセイジ! いい子にしてたら私が魔法教えてあげるわ」


 そう言ってくれるお嬢様。

 お嬢様、オレ一生ついていきます!

 あと、いい子ってどういうことですかな?


 もしかしてオレ、15歳の子に年下に見られている?

 いやまさか、そんなバカナ……怖いので聞くのはやめておこう。


 しかしながら、オレに魔法の才能はなかったようで、


「どうしてこんな事も出来ないの!」


 お嬢様は大層ご立腹であらせられる。

 せっかく色々教えてくれるのだが、さっぱりうまくいきません。

 あと、書物を見て覚えろって言われましても……字、読めないんスよ~。


「まあまあ、セイジは居てくれるだけでも十分役に立っているよ」


 最近オレと同じ、使用人部屋で寝泊りしているお兄様。

 なんでも虫刺されのない睡眠がしたいとか。

 一応、貴族様だから蚊帳のようなものはあるが、隙間を縫って入ってきたり、最初から中に居たりで、完全にとはいかない。

 それに引き換えオレの蚊取り線香。

 魔法的な何かがあるのかは知らないが、つけている間、虫に刺されることがないという。


「お兄様だけずるいですわっ!」

「そんなこと言っても、さすがにシュマを一緒に連れて行く訳にはいかないしね」

「じゃ、じゃあ、セイジが私の部屋に来ればいいじゃない!」


 この子はほんと、オレの事、何歳だと思っているのだろうか?


「何を言っているんだいそれそこ無理な話だろ」

「そんなこと言って、お兄様はアルーシャを・もごご」


 お兄様が怖い顔をしてお嬢様の口を塞ぐ。


「いいかいシュマ、世の中には言ってはならない言葉もあるのだよ」


 お嬢様は真っ青な顔でカクカク頷いている。

 普段おとなしい人が怒るとコワイデスナ~。

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