第18話 子供作る、全部、解決
「父上が多少考えを変えてくれたようだ」
ある日、お兄様が寝る前にそう言ってきた。
しかしいいのかな? 次期領主様が、こんな使用人部屋に何日も寝泊りして。
「ハハ、一人で寝ていても何も収穫がないだろう。それに引きかえ、ここだと色んな話が聞けるしな」
気さくなお兄様である。
「そんなこと言って、アルーシャの近くに少しでも・ヒッ」
「何か言ったかねベルト君」
「いえ、俺、何も言ってないッス! 何も知らないッス!」
お兄様の般若の面に慄く使用人のベルト君。
「ところで、どんな考えに変わったので?」
別の使用人の人が話を戻してくる。
なんでも、今まではとにかく身分証の無い者を捕らえてきた。
その方針を変える事は出来ないが、その者が望めば家族ごと連れて行くことにするとか。
引渡し先についても、必ず家族セットで扱うように約束させるとか。
良くなったのか、悪くなったのか。
と、時々出てくるアルーシャという名前の子なんだが、
「セイジ、まだ起きてるかい? 今、少しいいかな?」
皆が寝静まった頃、オレに小声で話しかけてくる。
「アルーシャのことで相談があるのだが……」
アルーシャさんは元々孤児の女の子で、姉が連れて行かれそうになったときにしがみ付いて離れず、ここに6歳ぐらいのときに来た子で、このお兄様の幼馴染になるらしい。
当時、お兄様があまりにも泣いてたその子を哀れんで、一生懸命父親に掛け合って、姉妹共々ここへ雇って貰えるようにしたらしい。
やはり兄妹ですな。
で、その子と接していくうちに恋心とやらが芽生え、今に至ると。
しかしながら自分は次期領主、身分的にアルーシャと結ばれる事はない。
何か、いい知恵はないだろうかと。
「子供作る、全部、解決」
と、アドバイスをしてみた。
「いやいや、そんなことしたら子供ともども追い出されるよ!」
やはり無理ですか。
「それにほらアルーシャの気持ちとかも、ほら、ね?」
そんなのはオレに聞いても分かりませんよ?
本人に聞いてください。
ふうむ……身分違いの恋ですか? う~ん、なんかあったっけかなあ?
オレは暫く考え込んでみる。そのうち寝てた。
寝る前に考え込むもんじゃねえな。
翌日、お兄様の機嫌が少し悪かったッス。すまんこってス。
とりあえずオレはいくつか案を出してみた。
まずその一。
アルーシャさんをどっか身分の高いお人の養子にしてもらう。
どこにだよ? っていう一言で却下。
その二。
駆け落ち。アルーシャさんと共に地平の果てまで。
兄さん冗談ですから! マジでそんな真剣な顔で考え込まないで下さい!
その三。
おおきな手柄を立てる。
ほら有名人なら、少々変なことやっても、やっぱあの人は違うなあと、いい方向に捉えられる場合もある。
その四。
とにかく粘れ。認めてもらうまで誠意を尽くすのだ。
うん、やはり最後はこれしかないかな?
「駆け落ちかぁ……」
だから兄さん、それだけはやっちゃダメっすよ?
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ほんとセイジは便利よね。それにセイジの出す水って、なんかとっても美容にいいのよね~」
そりゃそうっすよ。なんせポーション混じってますから。
ここでもオレは水を出す役だ。
「セイジが入れてくれたお風呂入るのが毎日楽しみだよ!」
「くっ、僕だって水ぐらいなら……」
「若旦那のは調整が無理でしょ?」
ちょっとアルーシャさん、あんまりお兄様を追い詰めないであげてください。
ほら、なんか萎れた花のように。
魔法で水を出して生活用に使うのは少々難しいらしい。
魔石なしだと大して出せないし、逆に魔石を使うとコストパフォーマンスが悪いうえに、制御が出来ず大量に出すぎてしまう。
この点ではオレのミズデッポウが勝っていますな。
お兄様が恨めしそうな目で見てくるっス。
「フフ、セイジにはセイジにしかできない事がある。そして、若旦那には若旦那しかできない事もある」
そう言って背中を叩くアルーシャさん。
さすが幼馴染、励まし方は心得ているようで。
あと、お兄様は使用人の人達からは若旦那と呼ばれている。
「若旦那にはどんどん立派になってもらって、私達を養ってもらわないとね」
アリューシャさんは若旦那の胸中を知ってか知らずかそう言ってくる。
「ん~でも、セイジに養ってもらうのもいいかもね。水だけじゃなくて、ほら、こないだのマグロ鳥? もう、ほっぺたが落ちるかと思っちゃった」
別の女中さんがそう言ってくる。
「ダメだ! アルーシャは僕が養うんだ! あっ、……」
思わず口を滑らしてしまう若旦那。
「わ~言っちゃった、言っちゃったよ若旦那」
「どうするんだろ? やっぱ駆け落ち?」
「うわ~、どきどき、はらはら」
皆が若旦那とアルーシャさんを見つめている。
「あ……っと、そうよね、若旦那には『私達皆』を養ってもらわなくちゃね」
その話を分からなかった事にしようとするアリューシャさん。
いいんですか若旦那?
「……そうじゃない、そうじゃないんだ。アルーシャ、僕は君を、僕の隣で養っていきたい」
「若旦那……お言葉は嬉しいですが私とでは」
アルーシャさんは嬉しいような、困ったような顔をする。
「そうだね、いつまでもこのままじゃ駄目なんだ。セイジ、頼みがある、僕と一緒に……ダンジョン攻略を手伝ってくれないか?」
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